一つの薬が治療戦略を変える
2010年 10月 16日
財団の理事長をされている東大の児玉龍彦先生のお話に心を打たれたのでレポートしておこう。

会議の冒頭のご挨拶、児玉先生が「私事で恐縮ですが……」と始められた。
何事かと思って伺うと、奥様が長いこと膠原病を患っていらしたところ、いろいろあって肝硬変に至り、「ドナーとして肝臓の3分の2を提供しました。」
え? 血の繋がった方ではないのに? と思ってさらに聴いてみると、「免疫抑制剤としてプログラフを投与して、順調に回復して、退院しました」とのこと。
続けて言われたのは、「米国では脳死による肝移植が年間4000例、生体肝移植が4000例以上、肝硬変の第一番の治療法は肝移植、という時代になったのも〈プログラフ〉という一つの薬剤が使われるようになったからです。公益財団法人アステラス病態代謝研究会として、是非、そういう新しい治療につながるかもしれない研究の芽をはぐくめるようにしたいと考えます。」
専門的な話をちょっと加えるとすると、〈プログラフ〉はアステラス製薬から販売されている商品名で、化合物の名前としてはタクロリムス、基礎研究者なら〈FK506〉という方がピンと来る人も多いだろう。
細胞内のFKBPというタンパク質に結合して、免疫細胞を活発化させる生体成分(サイトカイン)の働きを抑えることにより、臓器移植の際の拒絶反応を防止する働きがある。
筑波山の土の中の放線菌Streptomyces tsukubaensisから見つかったのが1984年、米国で肝移植患者への適応のための試験を始めたのが1989年で、1993年に認可されている。
その他の臓器移植への適応の他、さらに2005年からは関節リュウマチにも拡大された。
児玉先生は何故、FK506が非常に低濃度で効果が高いのかを知ろうとして分子のゆらぎや結合をシミュレーションしてみたところ、ゆらいでいるFKBPにFK506がうまく嵌ることを見出したという。
ちなみに、FK506/FKBPの複合体がさらにカルシニューリンというカルシウム結合タンパク質と複合体を形成することにより、カルシニューリンの活性を阻害するという作用がある。
その結果、上記のように免疫系のT細胞からのサイトカイン放出が抑制されるのだ。
この財団は若手研究者への研究費を支給しており、独創性の高い研究をサポートしている。
主たる研究対象は、(1)がん・生活習慣病、あるいは精神神経疾患などの疾患に関わる遺伝子、タンパク質、病態、診断法、治療法などの基礎的および臨床的研究、(2)合成化合物および合成技術、天然物、抗体医薬や核酸医薬を含むバイオ医薬、細胞治療、DDSやイメージング等の先端技術の開発とその応用など創薬科学全般に関わる研究、ならびに、創薬段階におけるヒトに対する安全性予測研究、(3)細胞生物学、ゲノム科学、構造生物学、システム生物学などの基礎生命科学研究の3つの領域です。また、これらの融合的研究も奨励します。
本財団は、「創造的かつチャレンジングな萌芽的研究」、「個人型の研究」、「女性研究者」、「教室を立ち上げたばかりの研究者」を支援したいと考えています。特に、交付者中の女性比率を順次引き上げたいと考えていますので、女性研究者からの積極的な応募を歓迎します。(財団HPより引用)
来年の募集は5月〜6月になるだろう。