研究者のアウトリーチ活動を考える(その1):サイエンスカフェをしなきゃいけないの?
2010年 10月 27日
多様なバックグラウンドの学生達(修士課程くらいが中心)20人弱を相手に英語での講義だったが、あっという間に75分くらい過ぎ、その後10分くらいを質疑応答にした。
いくつかジョークも盛り込み、途中での質問なども入れ、むしろ日本人学生さんよりもノリが良いところもあって、まぁまぁの仕上がりだったかな。
もうちょっと洗練されたボキャブラリーが増えると良いのだけど、今回はフランス他、英語がネイティヴではない方々相手だったので、それでもまぁ大丈夫だったかも。
その後ラボに行って学生さんとディスカッションした後、東京へ。
「科学技術と社会との対話(研究者のアウトリーチ)に関する検討会」の第二回目の会議があった。
6月19日付けで科学技術政策担当大臣および総合科学技術会議有識者議員の名前において「国民との科学・技術対話」の推進について(基本的取組方針)が提出されたことは、新聞等でもご存じの方も多いだろう。
PDFはこちら
3,000万円以上の公的研究資金を獲得した研究者に国民との科学・技術対話(アウトリーチ活動)を義務づける決定を行う
とまでは、実際には書かれていないのだが(PDF参照)、各種報道等ではそんな風に扱われていた。
これを受けての検討会がJSTを事務局として組織されたのだ。
座長は元NHK解説委員で科学ジャーナリストの小出五郎氏。
本検討会は、「科学技術と社会との対話(研究者のアウトリーチ)」に関する問題意識を、行政・科学技術コミュニティ・市民・産業界が共有し、望ましい方向を模索し、これらの成果を政策等のあり方などに反映させることを目標としています。
メンバーは現時点でweb上に載っていないが、筑波大学名誉教授の白川英樹先生(最年長?)や、「natural science」というNPOを主催している大草芳江さん(最年少?)も入っている。
ざっくり言って、現役研究者は14人中4人というところか(うーん、当事者が少ない……)。
これまで、行政の主催する各種委員会においては、ことあるごとに「これからは科学コミュニケーションが重要」と言い続け、「科学コミュニケーションを専門とする人材の育成と恒常的なポストの確保」についても指摘し、自分でもCRESTプロジェクトやグローバルCOEの活動の範囲の中で、種々の取組を模索したり、拙ブログにも書いてきた。
だが、体制が整っていないままに、上記の6月の決定が為されたことは、正直言って困惑するものがあった。
現場の研究者にとって、現状のままで「アウトリーチ活動の義務化」などを押しつけられたら、ただでさえ疲弊しているのに、かえって基礎科学力の低下を招きかねない。
そもそも「研究者のアウトリーチ活動」とは何なのだろう?
上記のCSTPの決定では「研究者と国民の対話」が重視されている。
「国民」はどのくらい「研究者との対話」を求めているのだろう?
大学院生等の面倒を見ることが少ない研究所は別だが、我が国の研究を支えている大学においては、研究者はそれ以前に「教員」である。
学部生や大学院生の教育を行うことは、科学リテラシーを有する人材を育成し、社会に輩出することであって、これは研究成果も間接的に還元していると言えないだろうか?
研究成果を論文として世に出すことは、研究者として基本的な情報発信である。
(英語の論文では日本の国民にとってのアウトリーチになっていない、という指摘はあろうが)
その成果の内容によっては、プレス発表を行ったり、新聞・TV等のメディアで取り上げられることになるが、これもアウトリーチ活動ではないか?
一般向けの本を書く、なんてことは、そんなに多くの研究者が出来る訳ではないが、これも科学コミュニケーションの一環であることは疑いない。
「双方向のコミュニケーション」が重要であることは十分理解している。
実際、自分が学生さんや社会人の方相手に講義やセミナー等を行う際に頂く質問等から得られるヒントも多い。
だが(象徴的な言い方をするとすれば)「サイエンスカフェ」を開催することが研究者のアウトリーチ活動の主体という捉え方は狭すぎると思う。
東北大学は独自の「サイエンスカフェ」を過去7年に渡って行ってきたが、聴衆は多いときで200名、少ないときで50名くらいだろうか。
それなりの数のリピーターもいるので、「広く国民に還元する」には不向きなスタイルとも言える。
もちろん、いわゆる「講演」というスタイルが一方的であることから生じたのが「カフェ」形式ではあるが。
ともあれ、「サイエンスカフェ」の開催には、それなりのスキルやノウハウも必要であり、だからこそ「専門性を有する科学コミュニケーター」が必要であるということには賛同する。
問題は、これまで科学技術新興調整費により、北大、東大、早稲田大では、科学コミュニケータ養成のプログラムが展開され、それなりの数の人材を輩出してきたにも関わらず、そのプレゼンスが一般には伝わっていないことであり、それは、そういう「科学コミュニケーション」を専門とする人材の恒常的なポストがほとんど皆無に近いことによる。
任期制の特任ポストで回しているだけでは、そういう人材のキャリアパスが確立せず、次に続く人材も育たない。
それをいきなり「研究費年間3000万円以上の研究者は……」というお仕着せはいかなるものか。
「科学コミュニケーションをしたい人材」が活用されておらず、「サイエンスカフェなんて、どうやっていいかわからない」研究者を使おうとするところに大いなる矛盾がある。
このテーマでは言うべきことがたくさんある。
例えば「日本の科学雑誌は今後どうなるのか?」なども。
追ってまたポストしていきたい。
ちなみに、上記検討会では意見をウェブにて募集しています。
関心のある方は是非ご意見をお寄せ下さい。
検討会では、科学技術と社会との対話に関する皆様のご意見を募集しています。
検討会でのディスカッション内容について、その他、研究者のアウトリーチ活動の意義、必要性、支援のあり方など、ご意見をお聞かせ下さい。いただいたご意見を基に、検討会で更に議論を深めたいと考えております。
ご意見はjstpr@jst.go.jpまで。
【参考サイト】
北海道大学CoSTEP:高等教育機能開発総合センター科学技術コミュニケーション教育研究部
河北新報/第11回東北大学サイエンスカフェ:脳をつくる遺伝子レシピ!(瀬名秀明X大隅典子)
東北大学脳科学グローバルCOE:第5回脳カフェ「杜の都で脳を語るー脳はなぜ美に魅せられるのかー」(10.07.03)
東北大学サイエンス・エンジェル
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