研究者のアウトリーチ活動について考える(その6):可能性はたくさんある

シリーズでポストしている「研究者のアウトリーチ活動について考える」の第6弾として、どんな活動があるかについて考えてみたい。
なお、より広い「科学コミュニケーションの主体」は、市民であったり、初等中等教育の理科教師であったり、サイエンスライターであったり、必ずしも現役の「研究者」であるとは限らないし、そういうシームレスな連携が重要であると思う。
だが今回の議論の発端が「研究費年間3000万円以上の研究者は〈国民との対話〉(アウトリーチ活動)をせよ」というお達しだったので、じゃぁ「アウトリーチ活動って何ですか? やり方は? 意義は?」という問題について、自分が関わってきたアウトリーチ活動を中心に述べてきた。
本日は、同じく、この問題の検討委員会の委員である、北大で長く科学コミュニケーションに携わってこられた杉山先生が委員会資料として用いられたものについてもご紹介したい(ご本人の了承済み)。




まず、北海道大学高等教育機能開発総合センター科学技術コミュニケーション教育研究部( CoSTEP)について。
北海道大学の高等教育推進機構高等教育研究部に設置されている科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)は、2010年3月まで科学技術振興調整費で運営されてきた科学技術コミュニケーター養成ユニットの後継組織です。
北海道大学CoSTEPは、科学技術コミュニケーションの教育・実践・研究を互いに有機的に関連づけながら行なう、新しいタイプの組織です。(同HPより)

ちなみに、同支援により運営された組織は他に東大と早大にあったが、東大では「科学インタープリター養成プログラム」として後継組織が立ち上がった模様。
私は「科学コミュニケーションを専門に行う人材のポストが必要」とあちこちで言っているのだが、そのたびに「…でも、そんな人材、なかなかいないでしょ?」と返され、そんなことはない、という説明をするのは、残念ながら、まだ社会への浸透が少ないからといえよう。
(その理由については思うところもあるが、また別の機会とする)

さて、杉山先生が用いられた資料を全部掲載するかどうか迷った挙げ句、一部を切り出すことによるディメリットもあるし、具体例についても、割愛するか迷ったのだが、このサイトを見る方にとって良い資料となるであろうことを考えて、ので、末尾に全文掲載とする(長くなってスミマセン…)。

おそらく、上記の「アウトリーチ活動のススメ」を決定した総合科学技術会議(日本学術会議ではない)では、サイエンスカフェ、出前授業、科学イベント等を想定していたのだろうと思うが、「研究者が行う」アウトリーチとしては、すでに述べたように科学書籍を執筆したりすることも可能だし(文才は必要)、ラジオ、テレビ、インターネットを活用することによって、時間や場所に限定されない情報提供を行うことも新しい展開となろう(ITリテラシー等のある支援は必須)。

そもそも、大学の教員であれば基本的には、真理の探究や新しいことの発見をもたらす「研究活動」をともに、「授業」という伝統的な形式により、次世代を担う学生(最初は普通の「市民」)にそれぞれの専門領域の科学リテラシーを与える活動を行っている訳で、これはまず根源的な「アウトリーチ活動」に含まれることを再認識したい。
入学金や授業料を払っている学生(やその親御さん)は第一義のステークホルダーであり、彼らへのサービスが疎かになるようでは、本末転倒だ。

その上で、それぞれの研究者の資質に応じて、より広い「市民」を対象としたアウトリーチ活動に携わることが可能となるように、種々の「支援組織」が必要となる。
そのような組織は以下のようなところに置くことが可能だろう。
・研究組織(大学、研究所等)
・研究費配分機関
・学協会事務局

このような支援組織にどの程度の人数が必要であるかは、支援対象の規模によるであろうが、科学コミュニケーションの素養や経験を備えた人材が、「継続的に」雇用される必要がある。


科学者と市民との双方向コミュニケーションを目指した取組例(杉山委員資料)

サイエンス・カフェ
○「テクノロジー・カフェ」技術士会のメンバーが、技術をテーマに
○大学職員がつくるサイエンス・カフェ
○「ジュニア・サイエンスカフェ」:中学生が企画・制作するサイエンス・カフェ
○大学博物館での「ジュニア・サイエンスカフェ」:大学博物館の展示へのコメントをもらい、改善に生かす
○サイエンスカフェを通して、地域を盛り上げる
○インターナショナル・サイエンス・カフェ:外国人研究者との対話
○親子サイエンス・ワークショップ:サイエンスとアートの融合をとりいれて
○学生有志団体Scienthrough:学生による横断的科学コミュニケーションの試み

市民との対話
○サイエンス・ショップ:市民の、科学技術に関する疑問や要望の解決に、専門家が市民とともに取り組む
○コンセンサス会議:市民が、専門家から情報提供をうけながら、提言をまとめる。遺伝子組換え作物をテーマに。北海道庁主催、CoSTEP協力
○原子力問題に関する新しい対話方式の追求
○「遺伝子組換え作物対話フォーラムプロジェクト」
○科学者と市民の直接対話を重視したイベント:津波のリスクを地域住民が正しく知るための手法の開発・評価
○消費者のための参加型講座(消費者を支援する講座)の実践
○コンセンサス会議:これから普及するであろうテクノロジー(食品へのナノテクの応用)をテーマに、市民と専門家・企業が対話
○World Wide Views:地球環境問題をテーマに、世界40カ国ほどで一斉に、市民がディスカッション。市民参加型テクノロジー・アセスメント。

出前授業など
○「青少年のための科学の祭典」の取り組みと今後の課題
○「一家に1枚ヒトゲノムマップ」:ゲノム科学への導入のためのポスター制作
○「0to1」:大学院生による科学者コミュニケーションの試み
○親子ロケット教室:PTA母親学級の一環で

広報の支援
○「研究機関の広報支援のためのワークショップ」の企画実施
○AAAS(アメリカ科学振興協会)年次大会への出展を支援
○大学1年生が、研究室を取材し、映像作品を制作、YouTubeで発信

インターネットの活用
○ラジオ番組(Podcast番組)の制作
○インターネット出前天体観測会「どこでも天文台」
○「患者の語りデータベース」の制作・活用による医療コミュニケーション
○Researcher Zukan の制作:研究者へのインタビューをネットで配信
○科学講演会の生中継:Ustreamを活用して

教育プログラム
○大学院生向けSC教育プログラム:インターンシップを中心とし、恒常的なSCをめざす。
○e-Learningを活用した、SC教育
○大学院生の共通教育としてのSC授業を開発:「バイオ燃料と地球環境問題」を題材に
○高等教育機関におけるサイエンス・ライティング教の教育プログラム開発
○理系研究者による対話活動を支援するための手法の検討:トキ野生復帰に関するサイエンスカフェの企画・準備・実施を通して
○理系大学院生・研究者のための科学コミュニケーション教育
○プロジェクト型学習プログラムの開発・運用:「環境学習の場のデザインと評価」を通して
○「モジュールライティング」の開発と実践
○大学における教養教育を通じた脳神経科学リテラシーの向上

科学技術コミュニケーションのネットワークづくり
○サイエンス・アゴラ
○メールマガジン「サイコムニュース」の発行
○「横串会」組織や地域の垣根を越えたプラットフォームをつくる

その他
○最先端の現代アートと科学を組合わせたテレビ番組の制作
○テレビ映像と様々なメディアをクロスさせた科学教育コミュニケーションの手法開発:NHK「理科教育クロスメディア」の取組み

情報源:http://costep.hucc.hokudai.ac.jp/jjsc/

by osumi1128 | 2010-11-07 13:32 | 科学技術政策

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


by osumi1128
カレンダー
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30