無事帰国しました&『ミミズクと夜の王』
2011年 02月 21日

結果として、シカゴでターミナルを移動してセキュリティーを通ってラウンジに着いた頃には、もうあと30分もなかったのだけど、それはむしろ幸いだったかもしれない。
ラウンジ内はお客が詰め込まれた状態で、搭乗前にくつろいだり一仕事したり、という雰囲気ではなく殺伐とした空気が感じられたから、長くいる気にはならなかっただろう。
残念ながら紅組の落日をまざまざと見せつけられた気がする。
シカゴからの機内で観たのはMorning GloryというコメディとWall Street: Money never sleepsというドラマ。
Morning Gloryのドタバタの中の「ちょっといい話」的な部分でほろっとしてしまったのは、ボストン〜シカゴの間に読んだ『ミミズクと夜の王』で(3人掛けシートの真ん中の席だったにもかかわらず)大泣きして、涙腺のネジが緩んだままだったせいかもしれない。
2007年の第13回電撃小説大賞〈大賞〉受賞作であるこの小説は、作者の紅玉いづきが高校生の頃にプロットを固めたものらしく、主人公の「ミミズク」という名の少女をはじめとする、さほど多くはない登場人物の誰にも瑞々しさが感じられた。
独特の夜の森の描写の冒頭シーンから、一体何が始まるんだろう、という期待に引きずられて、ものすごい睡眠不足だから機内で寝ようと思っていたにもかかわらず、本当にそのまま一気読みしてしまった。
「私安い話が書きたいのよ」と渇望していた作者は、「例えば本を読んだこともない誰か、本なんてつまんないし難しいって思ってる子供の、世界が開けるみたいに」したいと願い、この本を著した。
そして、その願いは成功していると思う。
子供だけでなく、大人も、子供の心をどこかに残しているから。
文字でこんなに人の心を揺さぶることができるなんて、改めて思うがすごいことだ。
二次元に並んだ記号は視覚情報なのだけど、それがいったいどうやって涙を流させたりできるのか、脳科学が進歩したとはいえ、まだまだわからないことだらけと感じる。
こういう小説が英語化されたらいいのに、と思う。
主人公の「ミミズク」の名前は「ミミズ」に「苦」をくっつけた、というあたりの日本語独特の世界をどう訳すか、「ぬへら」という、なんとも肌が粟立つような笑い方の擬態語にぴったりの言い方はあるのか、独特の子供っぽい台詞と記憶を無くした頃の、ちょっとおすまししたような言葉遣いは、うまく書き分けられるのだろうか、などの問題はあるが、描かれているストーリーやコンセプトはワールドワイドに通用するはずだ。
それは作者自身があとがきで述べているように「理想と綺麗事」であり、ストレスの多い世界であればこそ、誰もが「理想と綺麗事」を必要とするのだから。