未だに科挙の国だから

今年は超プチサバティカル@ボストンにより年賀状を失礼させて頂いたので、暑中見舞いを出そうかと思って日本郵便のサイトを見てみたら、「東日本大震災寄付金付きかもめ〜る」なんてものがあることに気付いた。
季節のお便りで復興支援になるなら一石二鳥かも。

さて、ネットカンニングの話題を受けて拙ブログに大学入試のことを書いたのは、ちょうど311大地震の1週間前だった。
いろいろな方が「企業の一括採用」という制度・習慣が現在の日本の硬直状態の源になっているという指摘をしているが、そもそも、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、大学、大学院まで「一括採用」なのだから(多少の編入制度はあるにせよ)、就職制度だけを問題しても駄目だろう。





以前、仲良しのUCSFのJohn (Rubenstein)と話をしていたときに、「うちの息子も早生まれだけど、1年前にelementary schoolに入れたよ。僕もそうだっからね」という事例が出てきて、そのような制度の柔軟性に、さすがアメリカだ、と思ったことがある。
この話の別の側面は、「(学習に付いていくことができれば)早く教育をスタートする方が有利」だと思っていることで、「うちの子は〈早生まれ〉で、4月生まれの子より〈不利〉。なのでその分、点数を上げて下さい」というモンスターペアレントの発想と真逆。

さて、「一流大学に〈入学〉すれば、一流企業に〈就職〉できる」という、大学入試の結果が、その後の就職にかなり影響するという現在のスタイルの元は中国の「科挙」という制度まで遡れる。
これはある意味「平等」な制度で、家柄や出自に関わらず「試験の成績が良ければ官僚に登用される」という側面がある一方、もっぱら詰め込んだ知識の量で勝負するという点に問題がある。
つまり「ものさし」が一元化されやすい訳だ。

大学入学者選抜大学入試センター試験は1990年に開始され、その前進は大学共通第1次学力試験として1979年に始まったものだ。
全教科・全科目で設問の解答をマークシートに記入する方式となっており、記述式の設問はない。各科目ごとに決められている高等学校の学習指導要領に沿って出題される。広汎な受験生を対象にしているため、教科書にある例題のような出題も多く、対策さえしていれば比較的容易に高得点を取れる試験である。(Wikipediaより)

受験生はこの点数により、どの大学に「二次試験」の願書を提出するかを決めることになる。
そうやって入学してくる学生だから、まぁいわば「金太郎飴」のどの辺の集団なのか、という意味で均一化されている。

均一な集団が(留年・休学する学生はいるにせよきわめて少数派)ずるずると学年進行して、やがて大学生という身分を保った状態で「就職活動」をすることになる。
3月31日まで○○大学生で、4月1日からは●●企業の所属、というように、「切れ目無い履歴」こそが重要とみなされる。

この発想は英国の「ギャップ・イヤー」とは真逆である。
ギャップ・イヤー(英: gap year)は、高等学校からの卒業から大学への入学、あるいは大学からの卒業から大学院への進学までの期間のこと。英語圏の大学の中には入試から入学までの期間をあえて長く設定して、その間に大学では得られない経験をすることが推奨されている。この時期にアルバイトなどをして今後の勉学のための資金を貯める人も多い一方で、外国に渡航してワーキング・ホリデーを過ごしたり、語学留学したり、あるいはボランティア活動に参加する人も多い。(Wikipediaより)

例えば高校から大学の「隙間」の時間を、それぞれの人がどんな風に過ごすかは、若い人にとって大きな刺激となり、その人の人格形成に大きな影響を与える。
また、その多様性こそが、激動の時代における組織の強さをもたらす人的構成の多様性につながる。

センター試験と公務員試験のセットがいわば現代日本における「科挙」である。
とくに国を動かす立場の人的集団の多様性に欠けている根本原因はここにある。
変化の少ない平和な時代においては、均一な集団の方が効率が良い。
だが、先の見えない流動的な社会に対応するには、柔軟性や多様性が必須。

今回の311大震災は日本にとって、これから先を真剣に考える大事なきっかけだ。
とにかく拙速に「とりあえず昨年よりも経済状態が悪くならないように」という対応をするのではなく、まぁ、3年くらいはシュリンクしても構わないと考え、孫の代の日本がどんな国であってほしいのかをきちんと議論し、改善すべきところは長期的にじっくり変えていく必要がある。

今こそ問うべきだろう。
……未だに科挙の国でいいのですか?

【参考リンク】
石倉洋子氏のブログ:「ギャップ・イヤー?」
黒川清氏の記事:「若者は「外」へ出せ;国際交流がなぜ大事か」
ブログ「ICYE『骨の髄まで現地人』って?」:「休学のススメ」
クオリア日記:「ギャップ・イヤー」
Togetter:@Poyo_F さんの評価についてのTweetまとめ
by osumi1128 | 2011-06-18 23:55 | 雑感

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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