第7回脳カフェ「脳・つながる・科学 ーいま、社会の中でー」
2011年 07月 03日
震災直後に会場が使えないという可能性もあったが、お洒落なフジイさんをお迎えしてのイベントは、やはりここで行いたかったので何より。
梅雨どきだったけど雨も降らず、今回も200名超えの参加者に恵まれた。
藤井直敬さんの御講演は『つながる脳』ということで、「社会性」を脳科学で語られた。
人は「関係性」が無いと生きていけないということ、母子関係(必ずしも本当の母と子でなくても)として「母が子を承認することと、子が母を信頼すること」がまず基本。
それらはいわば矢印が相互に向かう関係性だけど、そこにさらに他者が加わることによって、多様な関係性が生まれてくる。
つまり、親一人、子一人の家族に、誰か一人(親でも子でも)加わることにより、社会性は著しく増すということだ。
さらに家族が増えることが人間の成長にとって好ましいと言えるだろう。
他者との関係性を「ルール」と定義すると、そのルールは他者との関係に応じて変化する。
そのルールの中では、「抑制する、我慢する」ことが基本。
サルを使った実験では、下位のサルは上位のサルがいるときには、欲しい餌を我慢するが、上位のサルの手が使えないなどわかると、すかさず餌に手を出す。
ルールに従って私たちの行動が変化する。
すなわち「ルールはそこにある、のではなく、他者との相互作用に応じて常に更新されている」のだ。
子どもが自然に行う利他行動を、大人は我慢して上書きしてしまう。
うまく抑制をはずすことによって、よりよい人間社会を形成することに繋がるのではないか?
……そんなお話を、魅力的なプレゼンアイテムとともに披露された。
さすが今年のTEDxTokyoのプレゼンターでもあるフジイさんは人を惹き付けるお話をされる。
とても参考になった。
私の方からは、そんな社会性をも生みだす脳がどのようにして出来上がるのか、という「脳のデザインと構築プロセス」について話をした。
今回、かなり新しくスライドアイテムを作り直して臨んだのだけど、一般の方向けに「脳の発生」の話をすることはやや少ないので、何をポイントにしようかかなり悩んだ末に、大脳皮質の「層構造」と「カラム構造」を取り上げ、発生の時間軸と、進化の時間軸の両方を俯瞰した話にまとめてみた。
なにせ、「脳の発生」だけで本1冊書けるのだから、話し出せばきりがなくて、自分の専門の話になればなるほど、何を切り捨てるかが難しくなる。
ともあれ、聴衆からはたくさんのご質問を頂き、それをグローバルCOE特任准教授の長神風二さんのコーディネーションで第三部の対談のところで扱わせて頂いた。
今回は展示もさらに充実していて、フジイさんの研究のイラストを手がける栗原樹奈さんの動画、
東北大学脳科学グローバルCOE若手フォーラムが中心となって企画した展示や、若手の異分野融合研究のポスター説明も、トークの前後に楽しんでもらえたようで何より。
Ustream配信は30人前後の方がご覧になっていたようだ。
イベント終了後も沢山の方が質問に来られたりして、また「これで最後なんて残念です」という言葉をかけて頂いた。
また「子どもが将来、脳科学を研究したいというのですが、どんな勉強をしたらいいでしょう?」というような質問も多かった。
「どんな学部からでも脳科学の研究を行う大学院に進学できますよ」と答えることにしている。
「理系進学を考える方でも、英語の勉強は大切です」というのも付け加えて。
【参考リンク】
イベント動画Ustreamアーカイブ(非常に長いのでダウンロードするのにものすごい時間がかかります。悪しからず)
藤井直敬さんのブログ:仙台311後(荒浜の様子画像あり)
藤井さんのご著書:『つながる脳』(講談社現代新書)
『ソーシャルブレインズ入門――<社会脳>って何だろう 』(講談社現代新書)
2011年5月TEDxTokyoでの藤井さんのパフォーマンス
2011年5月TEDxTokyoでの藤井さんのパフォーマンス(日本語ナレーション版)
拙著:『脳の発生発達 ー神経発生学入門ー』(朝倉書店)
拙翻訳本:『心を生みだす遺伝子 by ゲアリー・マーカス』(岩波現代文庫)