イタリア技術研究所訪問

リタイアしたらしたいことのWishing Listを作っているが、そのかなり上位にあるのが「イタリア語を習う」と「イタリアで数ヶ月生活する」という2項目だ。
「トスカーナの休日」という映画に影響されたという訳ではないが、イタリア語は日本人にとっては発音が比較的習得しやすい言語だと思っているのと、美味しい食べ物があったら幸せだろうと考えて。

さて、イタリア滞在2日目はイタリア技術研究所(ロゴは小文字でiit)でのセミナーがメインイベントだった。
日本時間に合わせて早起きをして(時差ボケとも言う)日本の仕事を片付けてから、10時頃に世界遺産になっているエリアの市街地のホテルからタクシーで研究所に移動したのだが、途中、タクシーの運転手さんが「ここがコロンブス生誕の地です」などと教えてくれる。
そういえば、昨日、ミラノから車でジェノバに連れてきてもらう際には、レオナルド・ダヴィンチが設計した運河などがあったりして、ジャック・アタリの『21世紀の歴史 未来の人類から見た世界』(作品社)の中に、1560-1620年はジェノヴァが世界の中心だった、という話があったことを思い出した。




iitはイタリア国内に数カ所あるナノテク、バイオ、IT、ロボティクスを中心としたセンターの複合体で、ジェノヴァのセンターはロボティクス、創薬、脳科学の3部門が置かれている。
Davide De Pietri Tonelliの所属する脳科学部門は大きな建物の2階のフロアを占め、そこだけで100名くらいの研究者がいる。
シニアなグループリーダーが数名、Davideのようなチーム・リーダーが数名くらいか、さらに独立して研究を行うシニア・ポスドクという立場の人も。
フロアには神経生物学系の研究者と、生理学系、理論系、工学系の研究者が混在していて、設備はほぼすべて共通機器。
新しいマルチ電極や自動記録システムを開発してすぐに応用する、なんてことが簡単にできる環境が整っている。
技術員のチームも独立して共通化されているので無駄が無い。
ただし、どこでもシステムの運用の問題はあって、「蛍光顕微鏡のフィルターが行方不明になった」などのトラブルはしょっちゅう起こっているらしい、というのは、夕食時に聞いた。

セミナー後に紹介して頂いた創薬部門では、さらに充実した設備があって、低分子化合物ライブラリーのIT管理や人体に有害な試薬の保管庫の吸引装置、自動で閉まる安全キャビネット(閉め忘れる人がいるから)、などにいたく感心した。
今のところ研究所の方針は「とにかく充実した環境を提供するのだから、最先端の研究を自発的に行って下さい」ということらしいが、一方で、シニアな研究者のリクルートにあたっては元の大学のポジションを残したままだったり、なので、若手の中には不満もありそうだった。

ともあれ、やはりイタリアでも「大学の仕組みの中では改革が進まないから、研究所を作ってしまう」ことにしたらしく、そういう意味では日本の「世界トップ拠点(WPI)」などが目指したことも同様なのだろうけど、なかなか上手くは動いていない。
先日のベルギーの研究所訪問のときにも感じたが、「え! ベルギーで? イタリアで? こんな研究所ができているの?」という気持ちになる。
理化学研究所も伝統と歴史があって、既存の縦割り社会からの脱却は簡単なことではないように見える。

震災を契機に、市民レベルでは一日も早く「元の生活レベルを回復すること」が大切だし、一方、国の科学技術政策に関しては、この際、きちんと新しいグランドデザインを作らなければ駄目なんじゃないかな。

午後も30分刻みで人と話をして、なかなかそれは面白い収穫があった。
夕方になると時差で眠さの極地になり、それでも、夜9時くらいから夕食を御馳走になって、お開きは真夜中……。
「研究は体力だ!」
イタリア技術研究所訪問_d0028322_1515485.jpg

by osumi1128 | 2011-07-13 15:54 | 旅の思い出

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