UCSFの大学院事情:日本は粗製濫造?

休暇申請で来ている出張だったが、先週木曜日はUCSFのミッションベイキャンパスにてセミナーやディスカッション等を行った(貧乏性)。
パルナッサスの本部から無料シャトルで30分ほどのところに、UCSFの新しいキャンパスが出来たのは、もう6,7年前のことになるだろうか……。
ここの開発はどんどん進んでいて、あと1、2年のうちに、神経関係のラボはただ今建設中の新しい建物に移ってくるらしい。
その他に、心臓専門の病院や小児病院も造られつつあって、だいぶ活気が出てきたように思う。
UCSF関係者なら例えば月50ドルで会員になることのできるスポーツジムなど、アメニティーも充実している。

休暇シーズンなので、一体何人セミナーに来るかと思ったが、30人弱くらいで和やかな雰囲気でできた。
開始を10分程度遅らせて待っている間に、震災関係の説明をしたのだが、ジョークスライドを思いついたので、次回に使おう(シメシメ……)。
今年いっぱいは皆さん「どうだった?」と訊かれるからね。

セミナー前に午前中から一人1時間ずつ取ってアレンジして頂いたディスカッションは、サイエンスの話も面白かったが、ここでは、教育関係のエフォートが高いLuis Reichardt博士に伺った「UCSFの大学院プログラム」について紹介しよう。





UCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)は大学院大学であり、入学に必要なものは以下のとおり。
・Undergraduateの成績証明書
・TOEFUL成績証明書(600点程度?)
・志望動機についての作文
・特記すべき経験(サマースクール参加、ラボテクニシャンとして働いた経験等)

これらを委員会が判断して入学が許可されれば、最初の2年間は奨学金が保証される。

神経系の場合ではNIHからの教育資金がNeuroscience Training Programに対して与えられているので、ほぼ、このプログラムから支援される。
最初の1年は10個程度のコースワーク(座学・講義)がびっちりあって、もちろんレポートや試験により成績判定が為される。
その後、3ヶ月X3箇所程度のいわゆる「ローテーション」により、PhDコースを過ごす研究室をどこにするかお試しすることになり、UCSFの場合には95%以上の学生が進学するらしい。
(何らかの理由によって、この時点で退学する学生さんには「Master Degree」が授与される。)
ローテーションは、いろいろなラボに人脈を作ったり、どのラボではどんな技術が得意か、などを体験することができるし、PI側にとっても人物を知るのに良い機会となる。

上記のNeuroscience Training Programでは1人当たり年間21000ドルが支給されるのだが、では、どのくらいの人数の大学院生がいるか、というと、1学年に12-15名程度。
博士前期課程全体でもせいぜい25-30名程度という。
ちなみに博士後期課程からは、PIの研究資金から研究補助者としての給与が支払われる。
(研究資金が獲得できない研究室では大学院生を取れないことになる)
結局、前期・後期合わせても、神経系の大学院生は80名程度であり、対するPIの数は70名にも上る!!!
つまり、PI1人あたりに大学院生はせいぜいが1名程度なのだ。
1人の学生さんには、最初の2年は1人のアドバイザー教員が付き、後期課程ではthesis committeeメンバーが4.5名付く。

もちろん、米国ではAssistant ProfessorもPIであるので、日本で言えば助教クラスの研究者が皆独立扱いとしてカウントされる訳だが、確か日本での大学院の設置基準は、教員1名に対して2名だったはず。
しかも、UCSFは上記のように「大学院大学」なので、学部の授業は担当していない!
さらに言えば、前期(修士)から後期(博士)課程への進学に関わる教員は専門の方であり、教授会全体で合否の「合意」などの会議は行わない。
もちろん、研究費獲得率は10%代とのことなので、ものすごくシビアなことは間違い無いのだが、それにしても日本の大学が行った「大学院重点化」とは「重点化」だったと言えるだろうか?

ちなみに、カリフォルニア大学全体でGraduate Schoolの評価委員会があり、学生がどの程度、どんな雑誌に論文を書いたか、などがチェックされるとともに、上記NIHのTraining Program Grantの申請にも「分厚い資料」が必要だと言う。
Reichardt博士曰く「幸い、UCSFは全米でも良い神経科学研究が行われているので、今のところ5年ごとに更新できています」とのこと。

プログラム自体の中身については「とりたてて何か特別なことはしていませんよ。年に1度、学生全体のリトリートがあり、教員もなるべく参加するようにします。後は前期2年の間には学生さん(〜30名)のweekly journal clubなどがあるくらいです」
私が思わず「そのjournal clubの後は、もしかしてピザとか出るのですか?」と訊くと
「(笑)もちろんです。参加率を良くする為にね」
「日本では、そういう飲食には研究費は原則として使えないのです……」
「それは残念ですね」

……大学院教育を良くするためのプログラムとして始まった「グローバルCOE」に関して、初年度採択の分が今年度で終了となる。
今年は「リーディング大学院プログラム」の応募が開始されるが、次々とプランを変える必要があるのだろうか?
教育システムの改善など、数年で判断することは極めて困難だ。
さらに、大学院教育の善し悪しについて「学位授与機構」などが評価して下さっているのであれば、その評価結果をリンクさせてプログラムの判断をして頂けば良いのではないだろうか?
それとはまた別に皆で競争させて、とにかく新規のプログラムを立てなければならないのは、評価する側も余分な労力になるだけでなく、そもそも継続性に欠けるし、何よりそれで最も不利益を被るのは学生さんになってしまう。
もちろん、教員も研究や教育以外のことに割く時間が増えてしまうし、それもやはり教育の質の低下を招いているのではないだろうか?
この国では「皆が楽をして合理的に良い結果を生む」仕組みに価値が置かれないことに問題があると思う。

(追って、各種リンク先を追記します)
by osumi1128 | 2011-08-16 07:39 | 科学技術政策

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