脳科学とアートのコラボ
2011年 09月 24日
この前の日曜日に行ったイベントについては、今後の展開も考えたいので覚え書きをしておく。
東北大学脳科学グローバルCOEでは「脳神経科学を社会へ還元する教育研究拠点」として、教育・人材育成とともに一般市民に向けたアウトリーチ活動も積極的に行ってきた。
「(元祖)脳カフェ」と称するサイエンスカフェ・脳科学版の開催は7回を数えたし、市民公開講座なども開催した。
その中で芸術系の講演者をお招きすることを何回か行った。
一番最初は、東京で開催した脳カフェの「能楽と脳科学と」で、能楽師の八田達弥さんに来て頂いて実際に「弱法師(よろぼし)」を舞って頂いた。
それがご縁で、今回の神経科学大会のスピーカーズディナーと懇親会でも、それぞれ「高砂(たかさご)」と「石橋(しゃっきょう)」をボランティアで公演して頂くことができた。
その後、第5回の脳カフェ「脳はなぜ美に魅せられるか」では、美を認知するプロセスをご研究されている川畑秀明博士と、美術系の編集をご専門とされるBRUTUSエディトリアルコーディネータの鈴木芳雄氏をお招きした。
今年の1月には公開シンポジウム「脳科学と芸術の対話」として、神経美学のパイオニアであるロンドン大学のセミール・ゼキ博士(上記川畑氏の留学時代の恩師でもある)が別イベントで御来仙であったので、市民向けにもご講演頂き、現代美術家の宮島達男氏と対談して頂いた。
さらに今回、第34回神経科学大会のサテライトイベントとして、「みること、えがくこと―脳科学とアートとの対話」を開催し、視覚の神経科学をご専門とされる藤田一郎博士の講演と、美術家の横尾忠則氏との対談を執り行った。
本イベントは、横浜美術館を主会場として行っているヨコハマトリエンナーレとの共催による。
横尾氏のような「大物」をお呼びすることができたのは、横浜美術館館長の逢坂恵理子氏のおかげ。
逢坂氏をご紹介頂けたのは上記の鈴木氏経由、ということで、人と人の繋がりの有り難さを感じる。
藤田先生はこの日のために入念な準備をされ動画も満載の講演で、前半は「脳が見る」ことの不思議さについて錯視や脳が手を抜いて情報処理していることなどを話され、後半では「脳を見る」と不思議な模様があることを、ネズミ等の動物のヒゲに対応する脳の領域の模様や、最先端の技術によるBrainbow(虹色の脳細胞)についてまで話された。
多くのネタは先生のご近著『脳の風景:「かたち」を読む脳科学 (筑摩選書)』に書かれているので、興味のある方は是非どうぞ。
直前のお打合せで横尾氏は「脳に別に興味はない」と切り捨てられたので、コーディネータとして対談の進行をどうするか悩んだが、まぁ、それでも構わないから、横尾氏のファンでもある藤田先生に、聞きたいことを聞いて頂くところから始めたが、横尾さんのお人柄というかサービス精神というか、思わず会場を笑いに釣り込んで下さった。
横尾さんは今回のトリエンナーレでは「Y字路」シリーズを出展されているので、そのエピソードについてもおうかがいした。
「Y字路そのものに興味があるのではなく、たまたま昔の馴染みの風景がY字路だった。描いてみると面白いと思った」のでいろいろなY字路を探して描いてみた。
元々の風景が夜だったので暗い作品になり、「見えないものを描こう」としたのだが、だんだん「見えないもの描かなくてよいと思うようになった」らしい。
「脳科学で細かくいろいろなことがわかりすぎてしまうのは困るんですよ。本質はそういう風に切り分けられない」という指摘は、おそらく一般の方々でも同意される方が多いのではと思う。
近代科学は還元論と分析主義で成り立っているので、細かく分けて調べようとするのがまさに真髄。
でも、例えば、働いている遺伝子をまとめて見てみよう(トランスクリプトーム)などのdata-drivenなアプローチも出始めており、もっと統合的なものの見方も今後は多くなるだろう。
また、進化や個人個人の健康状態など、再現性が取れないものはこれまでの「科学」ではないのだが、こういう「一回性の科学」のお作法についても定まってくるかもしれない。
閉会のご挨拶として逢坂館長が素晴らしいまとめをして下さった。
今回、ヨコハマトリエンナーレのテーマは「Our magical hours」です。結局、科学者の方々も世界や人間存在の不思議さに遭遇するわけですから、アートも科学も、世界を読み解こうとするアプローチが異なるものの、未知なるものをつきつめようとしてしているのだと思います。
この企画が成り立ったのは、ヨコハマトリエンナーレや横浜美術館の関係者と、サイエンスとアートを繋ぐことに私以上に情熱のある長神風二氏(a東北大学脳科学グローバルCOE特任准教授)の熱意による。
これまで同様、魅力的なポスターやチラシは、長神氏の元で働く栗木美穂氏のデザイン。
脳科学若手の会のメンバーもボランティアでお手伝い 下さった。
この場を借りて心から感謝したい。