『フェルメール 光の王国』

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先日観てきた「フェルメール展@宮城県立美術館』は12月12日までで、その後、23日からは東京に移る。
是非それまでにもう一度観に行けたらと思うのだが……。
今年の日本での展覧会に合わせて刊行された(と思う)『フェルメール 光の王国』(福岡伸一著、木楽舎)は、とくに生命科学にも興味のある方には是非お勧めしたい。




私がフェルメールが好きになった理由の一つは、その作品そのものの雰囲気もあるが、顕微鏡の父と言われるアントニ・ファン・レーウェンフックとの交流があったことを知ったからだ。
「地理学者」と「天文学者」はレーウェンフックがモデルと言われている。
本書では、まずこのエピソードに触れられているが、より積極的に「フェルメールがレーウェンフックの顕微鏡を通して観た世界に影響を受けたのではないか?」という推測をしていることに興味を持った。
このエピソードは福岡氏がANAの機内誌『翼の王国』の毎月のコラムを執筆するために、世界各国のフェルメール作品を(巡回する企画展ではなく)それぞれの美術館で鑑賞する(なんて贅沢な……)間にさらに熟成されていき、さらに一番最後に「フェルメールはレーウェンフックが行った英国王立協会への手紙(=現在なら「論文」に相当する研究成果の公表)の図を作成したのではないか?」という大胆な仮説へと展開していくのだ!

もちろん、福岡氏は慎重に「あくまで、そういうこともありえるのではないか?」という立場で、でもその根拠となる事実を押さえたトーンで(ちょうど科学者が論文執筆においてするように)述べているのだが、昆虫の脚のスケッチの美しさといったら芸術作品並みだし、そういう図が付随していた時期はフェルメールが生きていた頃までで、その後はまったく異なる図になっている、など、とてもとても気になるではありませんか!

著者があの『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)を書いた、そして数年前にもNatureに論文を出した福岡博士だからこそ、ニューヨークのメトロポリタン美術館やフリック・コレクションの収蔵作品(それぞれ5つと3つもある! 実はアメリカには案外多い)を語る際には、ロックフェラー留学時代の思い出や、ロックフェラーで研究をしていた野口英世のエピソードが重なり、これは他の美術評論の本にはお目にかかれないサイエンスとアートのコラボレーションだ。

もう一つ、面白い視点だと思ったのは、フェルメールの描く作品の中に「光の粒子」を視ることもだが(でも、こちらはよくある)、もう一つ、「時間の微分」が切り取られているという捉え方。
今日、生命科学研究科のSさんと夕ご飯を御一緒していて話題になったのだが、彼女曰く「単に<情景が描かれている>のではなく、映画のシーンを観るような感じ」というのが、まさに「時間の微分」なのだと思う。
つまり、フェルメールの作品の中を観るとき私たちは、さっきまでこうだったのね、きっとこれからこう動くかも、という時間の移ろいを感じる、感じてしまうのだ。

あ、それから最後に、福岡氏のフェルメール参りに同行して撮影された小林康宣氏の写真も素晴らしい。
そして、福岡氏の文章と小林氏の写真を編集して、こんな風に素敵な本という形にした編集者の方については、残念ながら御名前を探せなかった。
こんな方と一緒に本を作ることができたら幸せだろうなぁと思った。

『フェルメール 光の王国』(福岡伸一著、木楽舎)
by osumi1128 | 2011-12-02 00:20 | 書評

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