非対称な分裂
2012年 03月 08日
ちょっと忙しい日程なので(例えば明日は早朝会議がある)、残念ながらフルにアテンドできない。
相手の興味の指向性にもよるのだが、それなりにアート系に興味を示す人であれば、日本の美術を理解するのに大事なキーワードを3つ伝えることにしている。
それは、時間の流れ(time transition)、非対称性(asymmetry)、不完全性(imperfection)ということ。
「時間の流れ」が顕著にわかるのは「絵巻物」である。
西洋絵画なら1つの「場面(シーン)」が1つの画面に描かれるのが普通だが、絵巻物では右から左に時間が移り変わっていく。
時間の移ろいに日本人が敏感なのは、季節がはっきりしているからということもあろうが、最終的には「何ごとも完全な状態が永遠に保たれる訳ではない」という世界観によるのではないかと思う。
「非対称性」も日本に独特な美意識だと思う。
普通、円や球体などのシンメトリーなモノの方が生得的な美意識を刺激する。
つまり、対称的な美というのは、世界共通である。
しかしながら日本には「非対称性」を好むという文化がある。
それは、書院造りの外側は比較的対称的でありつつも、部屋の造りは極めて非対称的であることから明らかだろう。
「違い棚」などが顕著な例である。
もっと言うと、一見対称的に見える神社の鳥居の柱の太さにも左右で違いがある。
普通、お社は山や丘を背にして南を向いて造られるのが一般的であるが、その場合に鳥居の右手の方角の方がその反対側よりも若干、太いという。
三つ目の「不完全性」は上記2つと関係すると思うが、完璧な満月よりもちょっと欠けた方が良い、という、いわばひねくれた意識。
茶碗の欠けたのを繕ったものに「美しさ」を感じるというのは、生得的というよりも、後から文化として受け継いだものだと思われる。
……前置が長すぎだが(苦笑)、元大学院生が筆頭著者の論文がEMBO Journalという雑誌にオンライン掲載された。
この論文では、マウス胎仔の大脳皮質原基をモデルとして、神経幹細胞が分裂する際の非対称性を扱っている。
苦節7年の結晶ともいえる作品は玄人ウケのものだが、神経発生分野の教科書に載るべき重要な発見だと自負している。
T君、おめでとう! 次はさらにもっと飛躍して下さい。
そして、共著者の皆様、有難うございました。

【参考リンク】
Cyclin D2 in the basal process of neural progenitors is linked to non-equivalent cell fates
プレス発表(PDF):胎生期脳の幹細胞から神経細胞が生まれる仕組みの解明
gooニュース:神経幹細胞の非対称性分裂に関与しているのは「Cyclin D2」 - 東北大が解明