言語の起源を考える

国際会議のハシゴはかなり刺激が多く、まだアタマが痺れたような感覚が続いている。
岡崎で開催された「大脳新皮質の構築」のシンポジウムの後に参加したのは、「言語の起源」に関するものだった。
元々、心理学や言語学に興味を持っていたのだけど、それらがいわゆる「理系」の学科だったので、受験に際しては対象外となった。
チョムスキーの「生成文法」を知って面白いと思ったし、小鳥の歌から言葉の起源を探るのは理に適っていると感じたが、まさか「“言語”の“遺伝子”が見つかった(後述)」なんて論文が出てくるとは20年前でも思っていなかった。
ましてや、自分の研究との接点が出てくるなんて。




このEvolang IXという国際学会は初めての参加だったので、いろいろなことが新鮮だった。
やはり普段の研究とは分野が異なるので、種々の英語の単語の聞き取りや特殊な使い方に躓きを感じ、あぁ、研究始めたばかりの学生さんって、こんな気持なのかもしれないな、と思った。
さすが「言語学」の研究者が大半なので、発表する方々の英語のレベルが格段に高いのも印象的だった。
しかも、プレゼンそのものもTEDのようにされる方も多かった。
パワポで文字ばかりを出すというスタイルは(きっとレジュメの替わりで、文系では普通なのかもしれないけど)ちょっと馴染むのに時間がかかりそうだった。
「データが無い」総説のような発表というのも驚きだ。
やはり所変われば品変わる、学問に多様性があることは良いことだと思う。

全体での参加者は200名超えくらいだったのだろうか。
手作りで(つまり、いわゆる「学会屋さん」が入らずに)運営していたのも懐かしい感覚。
私が大学院生の頃は、細胞生物学会だって、駒場の教室を使って開催していた。
この四半世紀の間に大きな学会が増えて、学会のお世話をする会社も大きくなり、数も増えた。

プレナリー・レクチャーで呼ばれていた方々の中では、一番近かったのがSimon Fisherという遺伝学の方。
前述の「言語の遺伝子」というキャッチフレーズでFOXP2という遺伝子の同定に関わった研究者だ。
実際にはFOXP2は、肺や消化管でも働くので「言語だけ」に関係するのではないし、「言語」という複雑な営みの中で何に関わるかについては、まだまだ異論がある。
一応、脳の中では運動機能を制御すると言われている大脳基底核や小脳にFoxp2の遺伝子産物が局在しているので、「発話speech」に関わるのだろうと想像されている。

自分の研究との接点は、一昨年の終わりに発表した論文で、Pax6(my favorite geneですね)の変異ラットの行動解析により自閉症様行動異常があること、とくに、岡ノ谷さん@理研BSI(当時)との共同研究によりultrasonic vocalization(ヒトのspeechに対応すると思われる)に異常が見られたことによる。
さらに、なんと昨年7月にイギリスのグループから出た論文ではPax6により制御される遺伝子の1つにFoxp2がある、ということになって、これは一気に話が面白くなったという次第。

……ということで、言語学の研究コミュニティにPax6という新規の遺伝子を引っさげて殴りこみに行った(←大げさww)という訳だ。
40分の時間を頂いてinvited talkをさせて頂いた。
まぁ、「遺伝子なんてものが言語を規定できるのかね?」なんて懇親会の折にも言われたが、「もちろん、1つの遺伝子で言語が生まれるとは考えられません」と答えた。
これから大いに進展する学際的な分野だと私は思う。

岡ノ谷さん、素晴らしい国際学会のlocal organzerお疲れ様でした。
日本の学会でも盛り上がると良いですね!
by osumi1128 | 2012-03-17 00:40 | サイエンス

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