『心と脳 ーー認知脳科学入門』(岩波新書)をお勧め!

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本日は宮城県私立幼稚園連合会の主催する宮私教育研究発表会で講演した。
2年ほど前に市内の聖ドミニコ学院の教員の方々相手に講演させて頂いたのがご縁。
仙台市民会館大ホールに来たのは、この前はセミール・ゼキ先生X宮島達男先生のイベントのとき。
今日は自分の単独講演だった。
大きいホールは声が遠くまで届くのに時間がかかるので、普段よりもゆっくり目に話さないといけない。
頂いたお題が「幼児期における科学の芽生え」だったので「科学の芽を育てる」という副題を添えた。
皆が科学者になる訳ではないが、地球温暖化にしろ、低線量放射能の人体への影響にしろ、病気の罹りやすさに関わる遺伝的素因にしろ、これまで以上に科学的な知識や物の考え方が普段の生活に関わる時代、子どもたちの科学するこころを育むことはより重要になっていると思う。

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その後、文科省で脳科学委員会の会議に30分遅れで出席した。
この会議では、ライフサイエンス課の支援による脳科学戦略推進プログラム(脳プロ)のあり方などについての議論を行なっている。
脳プロはいわゆる「トップダウン型」の研究費であり、主としてチーム研究が中心である。
「社会に還元する脳科学」を謳っており、ブレイン・マシン・インターフェースの研究(課題A, B)、霊長類を用いた基盤技術の開発(課題C)や、精神疾患等のバイオマーカーの探索(課題D)などの課題が立てられている。
今日の会議では脳プロのプログラムディレクターをされている中西重忠先生が、今年度で5年弱のプロジェクトが終了する課題AやCのその後の展開などについての見解を示され、それぞれの委員がさらに種々の観点からの意見を述べた。
これまでの委員会についてはこちらのサイトに議事次第、配布資料、議事録が公開されている。

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……で、ようやくタイトルにした書評の件。




『心と脳 ーー認知脳科学入門』(岩波新書)の著者である安西祐一郎先生も脳科学委員会の委員のお一人である。
平成13年から21年まで慶應大学の塾長(←学長ではないのですね)という重責に就かれていらして、昨年からは日本学術振興会の理事長。
東北大学の経営協議会のメンバーでもある。
本書は昨年9月に刊行されたもので、(参加できなかった)ご退職記念の会の引き出物として頂いた。

副題に「認知科学入門」とあるように、その学問の歴史について周辺の領域の学問も含めての流れが、第II部にすっきりと、かつ濃密に書かれている。
安西先生によれば「認知科学」は「心のはたらきにかかわる現象を、伝統的な学問分野や文系理系の区別にとらわれず、<情報>の概念をもとにして理解しようとする知的営み」と定義される。
「そうか、<情報>がキーワードなのね」と、1930年代から確立された情報学が1950年代の認知科学の成立に大きな役割を果たしたことを「認知」した。

オビに
心とは? 脳とは? 人間とは?
21世紀最大の知的挑戦 その全貌が1冊でわかる

とあって、当初、大変失礼ながら「そんなの、1冊でわかる訳はないでしょ!」とツッコミを入れたが、読んでみると、その整理され、体系化された記述の素晴らしさに圧倒された。
(でも、やっぱり、この1冊で「わかる」ような生やさしいものではないのだけど>認知脳科学)
手元に「辞典」として置いておくと、何かとレファレンスになると思う。
また、これから何らかの脳神経科学分野に進もうと考える若い方々にとっては、第III部の将来展望にいろいろなヒントが隠されている。
認知科学が医療やコミュニケーションの分野だけでなく、教育、デザイン、芸術に対してもどのように関わる可能性があるのか、私もその将来を眺めていきたい。

ちなみに、件の引き出物のもう一つはクリストフルの小さな銀のトレーだった。
こんなお洒落な引き出物を選ばれる安西先生のセンスにも感服。
by osumi1128 | 2012-03-29 00:09 | 書評

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