『経済危機のルーツ』を読んで(その2):門戸開放

東北大学の理念は「門戸開放」「研究第一主義」「実学尊重」となっており、これは1907年の開闢の折に初代総長の澤柳政太郎が謳ったものである。
この理念に則って、1913年に日本で初めて帝国大学(当時)に女子学生3名が入学したことは、何度か拙ブログで話題にしている。

さて、先日取り上げた『経済危機のルーツ ―モノづくりはグーグルとウォール街に負けたのか』(東洋経済新報社)』だが、著者の野口悠紀雄氏によれば、日本の経済危機のルーツと辿ると、1つには「IT化の遅れ」があり、こちらは先日取り上げたのだが、もう1つ大事なことは「アンチ門戸開放」的な政策が取られたことがあるという。
つまり、第二次世界大戦後にドイツと日本において自動車を筆頭とする「モノづくり」産業が振興する間に、英米はむしろその競争からはむしろ撤退し、代わりに情報産業を育成した、ということに加え、経済支障と経済体制が1980年代に大きな転換を果たしたことが大きく、その舵取りは「自由化」という方向に向かったのだ。




マーガレット・サッチャーが英国保守党党首に選ばれたのは1975年。
その後、1979年の総選挙で保守党が大勝利を収め、サッチャーは首相に就任して、90年まで在任した。
サッチャーが行った改革は、国営企業の民営化、とくに金融業の規制緩和、所得税率の累進性緩和であり、筆者に言わせるとこうなる。
抽象的に言えば、「大きな政府」「福祉国家」「ケインズ主義」の見直し、ないしは否定である。…
サッチャーが目的としたのは、既得権に守られた国内産業を支配することではなく、むしろそれらを排除し、競争力のある効率的な産業を育てることだった。重要なのは企業の国籍ではなく、企業のビジネスモデルであり、その遂行能力であるとされたのだ。

この政策に関しての評価は賛否両論あるが、その後のイギリスが大きく変わったことは間違いない。

サッチャーの規制緩和は、1980年の選挙で大統領となったロナルド・レーガンの政策にも影響を与えた、と筆者は見る。
レーガンも種々の自由化政策を実施し、例えばエアラインの規制緩和はアメリカの航空産業を大きく変えた。

日本では、ちょうど中曽根内閣の時期に、国鉄、電電、専売公社が民営化されたが、その後の規制緩和は英米には及ばない。
依然として国の人口の割には「大きな政府」であり、福祉には膨大な予算が割かれており、種々の既得権に守られてきた企業が21世紀型に対応しそこねている。

昨日の日経オンライン版で「国公私立大の外国人教授を倍増 20年メドに4000人 国家戦略会議が提言へ」という記事が出た。
明治の頃は、西洋流の科学を教える教員が日本人にはいなかったから、当然のことながら多数の外国人教師が招聘され教鞭を執った。
現在の日本では、大学の数も増え、高校生の半数が大学に進学するのだから状況は異なるが、「教員の8割が外国人」という外国人教員比率ダントツの宮崎国際大学なんていう大学もある。
ただし、こちらは小規模のリベラルアーツを専門とする大学(米国ならいわゆるシティカレッジ)なので特殊な事例として、旧帝大では軒並み1割にも満たないだろう。
もちろん、学生の国籍の多様性に関しても、日本の大学は鎖国に近い(もちろん、多様性という意味では、そういう大学があっても良い)。

昨日の日経の記事は突然降って湧いたものではなく、すでに昨年の夏に「第2次大学院教育振興施策要綱」が大臣決定として公表されている。
教員の多様性という意味において、外国人に門戸開放するのは良いが、現時点でそれを支える事務系の英語化(まさか人数が多いからといって「中国語化」ということはないと考える)がついていけるのかどうか?
(先日、Englishnizationというコトバを初めて伺った。これも次のネタだ>メモ)

もう一つ、とくに内向き志向になっている若手研究者たちが心配するのは、すでに職に就いている教員には既得権があるが、またしても自分たちの椅子が奪われる恐れがあるという点である。
外国人教員の採用にあたっては、日本人教員のreplaceではなく、新たなポストとすれば良いのだろうが、その財源はどこにあるのか?
そもそも、教員と学生の比率に関して言えば、リベラルアーツを専門とする大学と、研究中心大学・大学院は同列に扱われるべきではなく、大学院生にきめ細やかな指導をするためには、研究中心大学の教員数は学生の数に比して少ないことも問題である。

……うーん、話は次から次へと繋がっていく。

*****
ちなみに、『経済危機のルーツ』ではサッチャーとエリザベス女王一世の類似点が挙げられていて面白かった。
どちらも、英国立て直しのために「私がなんとかしなくては!」という気概に溢れた女性である。
映画『エリザベス』も見応えがあったが、メリル・ストリープがアカデミー賞を受賞した映画を是非観に行きたい。
by osumi1128 | 2012-04-29 23:16 | 科学技術政策

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