書評『レインツリーの国』
2012年 05月 04日
図書館戦争シリーズを読破し、自衛隊等の三部作、『シアター!』などをこなして、『三匹のおっさん』も通過、一番最近読んだのが『レインツリーの国』(←イマココ)。
『図書館内乱』のスピンアウトでもある『レインツリーの国』は、実は同時並行で刊行プロセスが進んでいた、というのだから驚きです。
以下、ネタバレになりますので、それが困る方はパスして下さい。
図書館シリーズの脇役ナンバーワンである小牧幹久という図書館隊員の幼馴染みの恋人、毬江が中途失聴という設定だったのだが、その毬江に小牧が奨めた本が『レインツリーの国』。
『レインツリーの国』の主人公の「ひとみ」(ハンドルネーム)は中途失聴なのだが、それに気づいたのは、本書の流れ通り「伸」(同じくハンドルネーム)の念願かなって初めてのデートの終わりの頃。
共通の愛読書『フェアリーゲーム』をきっかけとして、ひとみのブログからメールのやりとりが始まり、テキストチャットも繰り返している間にはまったく触れられていなかった事実に、伸はショックを受ける。
それでも、普通のカワイイ女の子よりも、ひとみの「言葉」に惹かれていた伸は、誤解の許しを乞うメールを出し、さらにデートを重ねて、聴覚に障害を持つひとみと付きあおうとする。
有川浩は難聴に関する本による取材はもちろん、社団法人全日本難聴者・中途失聴者団体連合会の方々に話を聞くなどの情報収集をしているので、取り上げられるエピソードの一つ一つにリアリティがある。
聴覚障害は本書の恋人たちにとって歩み寄るべき意識の違いの一つであって、それ以上でも以下でもない。ヒロインは等身大の女の子であってほしい。(あとがきより)
こういう姿勢が、私が有川浩好きな理由だと思う。
ちなみに、『図書館内乱』の中では、小牧が毬江に『レインツリーの国』を進めることが口実となって、「メディア良化委員会」が小牧を査問にかける、というエピソードがある。
「聴覚障害者の出てくる本を聴覚障害者に勧める行為は人権侵害である」というのだ。
良化委員会に対して毬江は訴える。
「障害を持ってたら物語の中でヒロインになる権利もないんですか? 私みたいな女の子が恋愛小説の主役になってたらおかしいんですか? 私に難聴者が出てくる本を勧めるのが酷いなんて、すごい難癖。差別をわざわざ探してるみたい。そんなに差別が好きなの?」
実際には、『図書館シリーズ』がDVD化され、テレビでも放映されたときに、このエピソードは割愛された、という現実がある。
だからこそ、有川浩はこれからもペンを持って(いや、キーボードを叩いて)戦ってほしいと願う。
『図書館内乱』の表紙にちゃんと『レインツリーの国』が仕込まれている、なんていう小技も素敵。