101本目のアーティクル(原著論文)
2012年 05月 19日
その先生が「積み上げると自分の背丈になるくらい本を書くのが目標」と話されたことが、ずっと頭に残っています。
1冊の単行本の厚さを2 cmとすると、うーん、80冊は上梓しないといけません……。
昔は素朴に「大学のせんせいって、そうなんだ……」だったのですが、最近は「研究者=論文を書く」「学者=本を書く」という違いなのかなぁ、と思って。
さて、先週、5月11日付で自分にとって101本目の原著論文がStem Cellsという雑誌にオンライン掲載されました(正式にページ番号が決まるのはまだです)。
マウスの海馬での神経細胞の産生と生存に、脂肪酸結合タンパク質が関与するというストーリーです。
これまでの当社の研究(これとかこれ)も加味して、思いっきり波及効果だけ言うとすれば、記憶や学習に重要な海馬神経新生の維持に、栄養素である脂肪酸が重要ということになります。
要旨はこちら
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それを元にしたYahoo!ニュースはこちら
筆頭著者のMさんは元ポスドクさんで、ここまで7年かかりましたが、誠に目出度い!
明日、正式に(笑)祝杯を挙げる予定です。

この仕事はT君のオリジナルアイディアに基づいていて、ある意味、発想の転換というか、目から鱗。
マウスの大脳新皮質の神経細胞を作り出すのに、サイクリンD2という分子を避けておく、という仕組みを明らかにしたのですが、同時にそれは神経幹細胞というタネの細胞を維持しておくという仕組みでもあり、霊長類などの大きな脳を作るのに重要なメカニズムを明らかにしたということにもなっています。
EMBO J掲載論文要旨はこちら
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EMBO Jのコメンタリー「Have you seen?」はこちら(この図の引用元)
Scienceの「Editor's Choice」はこちら
前述のMさんの論文は人間の健康に役立つ方向の基礎研究で、T君の方はもっとピュアな基礎研究といえますが、脳の進化は最近、大きな注目を集めています。
もちろん、進化そのものを実験して証明することはできないのですが、化石だけではなく、いわば「ゲノムに書き込まれた進化の証拠」を見つけることができるようになりつつあるのだと思います。
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明日(って日付は今日ですが)は栄養食糧学会のランチョンセミナーの座長を務めます。
講師は松岡豊先生(国立精神・神経医療研究センター)で、タイトルは「魚油でトラウマからこころを守れるか」です。
魚の油にはDHAなどの脂肪酸が多く含まれますが、それが脳の機能に重要であり、ひいてはPTSDなどの予防に効果があるのでは、というお話が聴けるはず。