白菊会総会にて:ここにもある、イノベーションを阻む足かせ
2012年 05月 25日
医学・歯学の基礎教育は解剖学から始まります。
これは医学そのものの起源と同じだからなのですが、4世紀前のイタリアであれば罪人の死体を用いていたところが、現在では献体という篤志に基づいた制度に基づいています。
東北大学の献体の団体は「東北大学白菊会」という名前で、35年前に全国組織の白菊会から別れて設立されました。
現在、登録されている方は県内各所合わせて約1600人おられ、毎年だいたい50〜60名の方が成願されて、そのご遺体が解剖実習に使われます。
年1回の総会では、医学系研究科長、歯学研究科長を始めとするご来賓の方々のご挨拶がなされ、活動報告や予算の承認などが行われます。

今年は初めて鹿野記念奨学奨励賞という賞の授賞式が行われ、医学部、歯学部の3年生それぞれ1名(両方共女子でした)が、白菊会理事長から賞状、記念メダル、金一封を授与されました。
医学系研究科HP:平成23年度東北大学白菊会鹿野記念奨学奨励賞授賞式が開催されました。
さて、話題にしたかったのは、というと……。
[画像は東北大学白菊会のロゴマークです]
献体されたご遺体が使われるのは、医学部・歯学部の解剖学実習においてなのですが、これは法律で定められています。
医学及び歯学の教育のための献体に関する法律(六法全書オンラインより)
この中に次のような条項があります。
(目的)
第一条 この法律は、献体に関して必要な事項を定めることにより、医学及び歯学の教育の向上に資することを目的とする。
(献体に係る死体の解剖)
第四条 死亡した者が献体の意思を書面により表示しており、かつ、次の各号のいずれかに該当する場合においては、その死体の正常解剖を行おうとする者は、死体解剖保存法(昭和二十四年法律第二百四号)第七条本文の規定にかかわらず、遺族の承諾を受けることを要しない。
一 当該正常解剖を行おうとする者の属する医学又は歯学に関する大学(大学の学部を含む。)の長(以下「学校長」という。)が、死亡した者が献体の意思を書面により表示している旨を遺族に告知し、遺族がその解剖を拒まない場合
二 死亡した者に遺族がない場合
言われてみると確かにそうなのですが、解剖実習はご遺体にメスを入れるものの、「医学及び歯学の教育のための献体」なので、「死体解剖保存法」の規定には当たらず、死体を損壊したことにはならないのです。
ところが、実はこれが意外な足かせになっています。
例えば、現代において種々の外科手術において、体を大きく切り開いて行うのではなく、内視鏡を使ったものがどんどん増えてきています。
本日の特別講演では、整形外科の井樋先生が動画でご説明になっていらしたのですが、けっこう細かい作業と思われる肩の靭帯損傷のような手術も、内視鏡ならほとんど傷も目立ちません。
(御講演では見事な唐獅子牡丹の方の症例をお示しになっておられ、患者さんは唐獅子牡丹に傷が付かず、大変に喜ばれたとのことでした……(^_^;))
このような内視鏡手術では、細いチューブの先に付いた内視鏡を介した画像がモニタに映り、それを頼りに針やらメスやら骨を削るものやらを動かすのですが、どうやってそれをトレーニングするか。
模型もありますが、人体とはいろいろと感触が違います。
井樋先生は「年に1回くらい、医局員を連れてハワイ大学等に行って、実技を勉強してきます。米国ではご遺体をこういう目的にも使用できるのです」とおっしゃいました。
上記の法律では「「献体の意思」とは、自己の身体を死後医学又は歯学の教育として行われる身体の正常な構造を明らかにするための解剖(以下「正常解剖」という。)の解剖体として提供することを希望すること(第二条より)」と定めているので、なんと、医学生・歯学生ではない医師・歯科医師は、実技習得を目的とした死体解剖を行うことができないのです(死因を調べるための病理解剖を除く)。
当然ながら、種々の研究はもとより、内視鏡などの医療機器の開発にも献体を供与頂くことは、現状の法律ではできません。
……という訳で、こんなところにも医療イノベーションを阻む足かせがあった、ということなのです。
日本解剖学会や種々の医療系学会からの要望もあり、現在、この法律の改正、いわば「現代化」に向けた議論が為されているとのことです。
もちろん、尊い御意志を尊重することが第一であることは言うまでもありません。