「博士号取得者3%採用ルール」という可能性

靴磨きができる週末は、気持ちの余裕がある良い証拠。
さらに今日は、シーズンオフでメンテに出したブーツが仕上がったので、オフィスからの帰りに引き取りに行ってきた。
手入れをして長く履ける靴には愛着がわく。

以前、拙ブログに「実は日本は<低学歴社会>だった!」というエントリーを書いたのだが、ここでもう少しbrain stormingしておきたいと思う。





政府の人材育成関係の委員をしばらく前から務めていることもあり、「ポスドク問題」や「キャリアパス多様化」などのキーワードについて考えることが多い。
この週末に「そもそも、これからの日本ではどのくらいの数・割合の博士号取得者が必要なのか?」について数字を出してみようと思った。
というのは、「日本の企業は博士人材を生かしていない!」という現場の不満や、「結局、団塊の世代の先生たちが定年延長して、若手のポストが足りない!」という悲痛な叫びや、「大学院重点化して研究業界の厳しさに耐えられない学生が多くて困る…それでなくても、ころころ変わる<大学のシステム改革>の申請書に振り回されているのに……これだから論文生産数が減少しているのだ………」という嘆きは周囲から多々聞こえてくるのだけど、誰も具体的な数字を挙げないからだ。

【現状把握のための計算】
平成22年5月の統計(高等学校学科別生徒数・学校数)によれば
高等学校在籍者数が全体で336万人
ちなみに普通科生徒が243万人(1学年81万人と推定)

平成22年9月の統計(学校基本調査報告書)によれば
大学入学者が62万人
大学院博士課程在籍者7.4万人なので
とりあえず1学年が2万人と少なめに推定(4年制と3年制と混在)

なので、ざっくり計算すれば、大学進学者の約3%が(現状の大学院ドロップアウト率が低いので)博士号取得者になる。
(ちなみに日本の社会全体としては、ほぼ全員が高校進学者と見積もって、約0.6%と考えた方がよいかもしれない)


つまり、日本の博士人材のキャリアパス問題を考えるためには、この「3%」という数字が妥当かどうかについて日本の将来を見据えた検討を行うとともに、すでに「3%」をかなりの国費もつぎ込んで育てたのだから、その投資分をどうやって回収するのかを真剣に考えた方が良い。

「大学院重点化(=大学院の定員増)」の次に「ポスドク1万人計画」が打ち出され、すでに1.8万人程度の博士研究員が日本に存在しているのだが、もちろん、大学院の定員増に比例した教員の定員増は為されなかった。
また、「米国のように、博士号取得者が企業等で活躍するような社会」にはならなかった。

実は、日本の「研究者総数」や「人口当たりの研究者数」は、諸外国に比してむしろ多い傾向があるのだが、これは「企業の研究者」もカウントされるためである。
企業の研究者の4.2%は博士号取得者であるという数字が出ている(平成22年度総務省統計局、科学技術研究調査報告)。
この数字は、先に挙げた「3%」よりは多いので、私は現状で企業に「もっと博士号取得者を雇用すべき」と圧力をかけても難しいのではないかと感じる。

では、博士人材はどこが吸収すべきなのか?

現状で大学の教員18万人のうち63%が博士号取得者という(平成23年科学技術研究調査結果(総務省)。
これは意外に低いと思ったのだが、文系では博士号など必要ない(意味がない?)という伝統があるし、定年間近の教員や臨床系に博士号取得者が少ない可能性がある。
高等教育の施策を打ち出す文科省の職員全体における数字は手元に無いが、おそらく2%未満なのではないだろうか。
これに対して、例えば米国のNational Science Foundationという研究費配分機関では約50%の職員が博士号取得者であり、ドイツの場合でも20%は超えている。
したがって、少なくとも科学・技術予算の策定や執行に関わる行政機関では、当面、上記の「3%」を数値目標として(30名採用のうちの1名など)、「新規採用職員」の博士号取得者を増やすというポリシーを打ち出せないものだろうか?
また、キャリアアップのためには国家公務員試験の年齢制限の撤廃も必要である。

さらに、現状のポスドク対策として有効と思われるのは、初等中等教育に携わる教員の博士号取得者を増やすことである。
しかも、これは、科学技術立国を謳う我が国のポリシーに合致している。
初等中等教員も、基本的に四年生の大学は終えている集団なのだから、「新規採用理科教員の3%」を博士号取得者ということを法律で定めてはどうか?
この場合に、各学校ごとにすると「0か1か」になってしまいがちなので、「県」などの単位で取り組むべきであろう。

上記の、行政職と教員が難しいのであれば、それはやはり、仮に任期制のポストであったとしても、「(日本版)テニュア・トラック職」のようなポジションを増やさなければ、国費を投じて育てた「3%」が死に体になってしまう。
5〜7年の間に学生の教育を行いつつ、論文や新規発見・発明等の業績が出なければ、それはアカデミア人材には向いていないという評価が下されても致し方ない。
ただ、現状ではその「トラック」さえも足りないということだ。

この増員ポジションの数をどのように試算すべきなのかについては、また別途考えることにしたい。
それは、膨大な人件費が必要となるだけでなく、それぞれの研究者の研究費も必要になるので、低成長率時代にどのように考えるのか、悩みどころである。
また、「本当に3%でいいの?」という問題を横で考える必要がある。
手っ取り早く思いつくのは、上記の「非アカデミア職」の「3%ルール」との連動である。
(つづく)
by osumi1128 | 2012-06-03 23:01 | 教育 | Comments(0)

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