中国における女性研究者育成問題:女性もステレオタイプに囚われている

1泊で北京出張に行ってきた。
4時間のフライトは気分的には国内出張に近いが、もちろんパスポートは必要だし、現地についたら日本語は通じないし、タクシーの運転手さんなどは、まだまだ英語も通じない。
このあたり日本の現状がどうなのか、一度、日本語がわからないふりしてタクシーに乗ってみないと比較できないけど。

World Women in Neuroscience (WWN)という組織がInternational Brain Research Organization(IBRO)の下に置かれており、その中心メンバーが、関連するOrganization of Human Brain Mapping(OHBM)の国際学会が今年は北京だというので、World Women in Neuroscience Policy Forumを開催した。
ちょうど学会のランチョンセミナー枠だったので、参加者にはランチボックスが提供され、この支払元がIBROという関係だ。
思いの外、50名を超える参加者となった。
タイトルは以下。
Is there a Leaky Pipeline in Asia?
如何推动改善亚洲女神经科学家的事业发展?

(Exciteが中国漢字に対応していてちょっと感心。でも本国でアクセスできないのだけどねww)




Leaky Pipelineというのは、学部生、大学院生から徐々にキャリアパスを経ていく間に、女性が減っていくことを意味する。
ちなみに、日本では大学院生全体として女性が30%くらいなのが、教授クラスになると10%に満たなくなる。
中国科学アカデミーの政策研究所の方の発表によれば、中国では、young investigatorレベルで32%なのが、panelレベルで22%、importantで9%、important & big(分類が面白い)で7%と、やはり徐々にリークしていくとのこと。

また、別の発表をされた北京正常大学付属認知科学研究所のPIの方は、少数だが周囲に聞取り調査を行なって、男女ともに「女性はこうあるべき」という「ステレオタイプ」に囚われているということを指摘していた。
昔は主婦、中国共産党ができた頃には労働者、そして今はoffice lady、というのが、中国の女性自身が持っているステレオタイプらしい。
「えっとー、大学院に行ったらー、結婚できないかもしれないしー、できたとしても、子ども育てながら研究するって、大変そうだしー」なんて風に、中国の神経科学の研究室の女子学生さんはPIの先生に話したとのこと。

今回、初めて中国の女性研究者の現状を知ることができたのだが、彼の国ではリタイアの年齢が、男性が60歳なのに対して、女性は55歳なのだという!
あまりにびっくりして、「え? なぜなのですか???」と訊いたのだが、「そういう法律になっているのです。たぶん女性はか弱いから、55歳超えたら労働には向かないってことじゃないかと……。」
「でも、研究は肉体労働ではないですよね?」

いや、研究分野によっては肉体労働もあるかもしれないが、そもそも平均寿命は女性の方が日本なら約10歳上なのだから、それに比例して女性の定年を男性より長くしても良いくらいではないか?
子育て期に生じがちなハンディを埋め合わせるためにも???

他に意外だったのは、グラントの審査員における女性比率が極端に低く現時点でも1%に満たないとのこと。
このあたり、日本では文科省の審査員の20%ルール(最近では30%ルールかも)とはエライ違いだが、だからといってそれによって日本の女性研究者が有利になっているとはあまり思えない。

ちなみに、私は「Governmental Policy and Actions for Encouraging Women Scientists in Japan」というタイトルで話をした。
発表の冒頭で、2006年の日本の女性研究者の割合が11.9%で、かろうじて11.4%の韓国より上(統計がある国の中で最下位から2番目)だったのが、種々の努力により2011年には割合は13.9%に上がった(パチパチ)、……が、韓国は14.6%とその上をいってしまい、最下位となって水を開けられたことを紹介した(←だめじゃん、日本……)。
中国における女性研究者育成問題:女性もステレオタイプに囚われている_d0028322_2320629.jpg
(平成23年度科学技術白書より)

今回、韓国の参加者はいなかったのだが、以前に国際分子生物学会がソウルで開かれた際のシンポジウムで得た情報によれば、韓国の場合の施策は思いっきりトップダウンであり、研究機関に対して女性研究者採用のプレッシャーを与え、女性限定のグラントなどを作っている。
女性限定のグラントがあれば、研究機関にとっては、女性を採用することにインセンティブが生まれるという訳だ。
まぁ、韓国という国は、第二次世界大戦後、あっという間にキリスト教が国のメジャーな宗教になったりするメンタリティーがあるから、そういうトップダウンの施策が馴染むのだろう。

フロアとのディスカッションで面白かったのは、米国のとある工学部で、女子学生の人数が多くなったので、試しに男女別クラスにしてみたところ、女性だけのクラスのproductivityがとても上がったという。
女性は、男性と一緒にいるとハンディやプレッシャーを感じてしまい、自己イメージが否定的になるのが、女性だけのクラスで過ごす間にself confidenceを得ることができるのかも、というのが解釈だった。
女子大の意義はこういうところにあるのかもしれない。

主催者の一人である米国衛生研究所のChief of International Activitiesという立場のDr. Yuan Liuの総括を挙げておこう。
1)まずは気づき(awareness)。どこに問題があるのかを認識すること。
2)それぞれの身近なところで、小さな集まりから始めよう。一緒に問題を考える仲間を作ろう。
3)研究機関や国の資金に応募してアクションを広げよう。

まずはできるところから、小さくても良いからアクションすること。
それが社会を変えることに繋がる。

【追伸】
どうでも良いことかもしれないけど、このランチボックスがやたら豪華で、hot dishesが3品(白菜の炒めもの、焼売、烏賊とカシューナッツと野菜の炒めもの)と炒飯が、まったく日本式の「幕の内弁当ゴージャス版」の中に入っていて、さらにスープとcold dish(筍と木耳の和えたもの)が付いていた。
ちょっと木製をフェイクしたプラスチックの幕の内弁当の容器(ほら、あの、フタ付きで中が仕切られえいて、お漬物の小さなコーナーとか付いている、あれ、ですよ)は、製造元は中国かな?
ちなみに、ランチタイムの野菜と茸類の平均的な摂取量は中国料理が一番多いかもしれないと改めて思った。
食物繊維とミネラルの摂取が中国パワーにどう関係するのか、興味があるのだけど……ww。
by osumi1128 | 2012-06-11 23:23 | 科学技術政策

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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