スケッチの才能

REDEEM実習は2日目。
昨日ラットの肝臓から抽出したゲノムDNAを元に、各種遺伝子をPCRで増幅し、制限酵素処理をした後に、電気泳動してゲルの写真を撮り、それを元に何の遺伝子を増幅したのか推測してレポートにするという課題になっている。
遺伝子増幅用のプライマーセットは5種類くらいあって、各自が好きなものを選んで行う。

実習のメニューを組む際に、各自の口腔粘膜から細胞を採取し、それを元にしてPCRを行う(いわばDNA鑑定だ)というプランも考えたのだが、やっぱり「DNAの糸」を見せたいということで、ラット肝臓から得ることに決定した。
その他には、各自から採血し、その白血球からゲノムDNAを得るというプランもあり得たのだが、採血を行う要員は私を含めて3名なので、そのステップで時間がかかるということと、4日目からのウサギの生理学実験や解剖に備えて、初日にラットのお腹を開くというのも、心理的な準備になるだろうとの判断だ。

この分子生物学実習と並行して、細胞生物学実習として、培養細胞を初日に撒き直し、今日は各種遺伝子を導入、明日その蛍光顕微鏡観察を行うというスケジュールになっている。
導入遺伝子は市販のものがいろいろあって、ミトコンドリアやゴルジ体などが標識される。
これも、各自がそれぞれ好きなものを選んで、最終日に何を導入したのかを当ててレポートを作成することになっている。

18名の受講者に対してスタッフは常時4人なので、学部の実習に比べたら贅沢だといえよう。
現役大学院生もちらほらいるが、大多数は社会人の人たちであり、モチベーションも高いのでこちらも楽。

メディカル系の学部では、教養から学部に上がると「顕微鏡実習」がつきものだった(今は東北大医学部では2年生で行っている)。
かつて私はこの顕微鏡実習が面白いけど大嫌いだった。
というのは、ただ顕微鏡観察するのならよいのだが、「スケッチ」を提出しなければならなかったのだ。

はっきり言って、私はスケッチの才能がない。
小学生のときに絵画教室に行っていたし、美術鑑賞は趣味で、構図や色の感覚についてはうるさいが、見たものを具象的に美しくスケッチするという能力には恵まれていない。
模式図を描くのは得意だが、これは別の能力である。
とにかく、大学院で顕微鏡の画像を写真に撮れるようになって非常に喜んだ次第。

ただし、顕微鏡実習が「観た対象からエッセンスを抽出する」という神経回路を構築するトレーニングとして意味があることはよく分かる。
大学院に進んだ際に、ボスからは「とにかく何でもスケッチしなさい」と言われた。
私が手取り足取り教えた学生にも同じことを言ったと思うが、今はもう何でもいきなり画像としてキャプチャーする時代になっている。

それでも、解剖学や形態学の方たちの中には非常にスケッチの上手な方が多い(逆にそういう能力に恵まれた人たちが進む分野でもある)。
神戸のKさんもその一人で、彼の描くものは皆ゾクゾクするほど美しい。
これって、モーツァルトとサリエリみたいなものだが(そこまで大げさに広げることはない?)、彼の描くスケッチが何故美しいのか、そのバランスや線の太さの使い分けなど、言葉として表すことさえできるのに、同じようにスケッチを描くということはできないのだ。
幸いサリエリとは違って、周りのいろいろなモーツァルト的方たちの才能に憧れ、賞賛するだけで幸せである。
by osumi1128 | 2005-08-23 16:07

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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