毛利衛さんの「ユニバソロジのすすめ」から危機管理をまなぶ【加筆】

d0028322_7385988.jpg6時25分発のはやぶさは8時ちょうどに東京に着く。
こんなに早いのに乗る必要もなかったのだが、はやぶさは車両が新しいので好きなのだ。
虎ノ門の駅は、来る度にアンバリアフリーだなと思う。
たぶん都内地下鉄の駅の中では最強だ。

今日、新幹線で読んだのは、毛利衛さんのご高著『宇宙から学ぶ ユニバソロジのすすめ』。
日本科学未来館館長の毛利衛さんとは、学術会議の科学力増進分科会などでご一緒している。
先日、ご丁寧に宛名付きサインの入った本書をご恵贈頂いて、出張のお供に連れてきた。
そう、普通の方には毛利さんといえば「初めて宇宙に行った日本人」として知られている方なのだろう。
高いところが苦手なせいか、近視だからか、遠い宇宙まで出かけてみたいという願望は私にはまったく無いのだが、毛利さんは「宇宙に行きたくて、行きたくてたまらなかった」、その願望を自分の意志で果たされた。




本書で提唱される「ユニバソロジ」とは、「個人のつながり〜人のつながり〜生命の普遍的な流れに基づくつながり」という世界観を元にする考え方で、材料科学の専門家であった毛利さんが二度の宇宙飛行を経た上で会得したものである。
宇宙から国境は見えない、宇宙の一員としての地球をベースに環境問題を考える、宇宙探索は人類の新たな生活圏を広げるというよりも、地球上での人類の生活を考えなおすため、というような事柄がユニバソロジに含まれる。
人類も「生命のつながり」を担う「地球生命体の一部」と捉える。

私は基本が生物学なので、宇宙に出ていかなくても、「自然環境、多様性、持続性、共生、進化、遺伝子」を理解しているつもりではあるが、宇宙からブループラネットをリアルに見たら、また何かが変わるのかもしれない。

それよりも、本書を読んでいて面白かったのは、宇宙飛行士トレーニングの間のエピソードのいくつかだ。
日本では成功するシナリオがあって、それを中心に「どう失敗しないか」を訓練するが、NASAの訓練はそうでないという。
「失敗したらどうするか」「どうしたら被害を最小限に食い止められるか」「ぎりぎりどこまで助かる可能性があるのか」をトレーニングするのだ。
実際、宇宙飛行士のトレーニング中にも事故で亡くなる方はいるという。
トレーニング時にできるだけ想定外のことをThink aheadするとも。
そうして、スペースシャトルのマニュアルは、正常に作動する場合だけでなく、malfunctional(異常作動)の場合についても、予め多数の可能性を考えておく。
これをtraining treeと称して、いかに異常作動のケースの事例を「枝」として増やすかが大事であることを教わる。

要するに、福島原発事故では、このような危機管理の文化が無く、「100%安心安全」と教えられ、あるいは「万が一」の場合は考えたとしても、「万が二」「万が三」の場合、複数の危機が同時に訪れた場合を想定していなかったということなのだろう。

もう一つ、恐竜から鳥への進化について、毛利さんは「飛びたいという意志があったからでは」という考察を述べている。
現代において、普通の生物学の理解では、生き物の「意志」によって進化が生じることは否定されているが、環境によって遺伝情報が上書きされ、それが世代を超えて影響を与えるという「エピジェネティクス」の事例が蓄積しつつある現在、そういうこともあったら面白い、と私は思う。
「キリンの首はなぜ長い」の説明で、「高いところの葉っぱを食べたい」もあったかもしれないし、「キリンだったら、首は長くなくちゃ、カッコ悪いよね」と雄も雌も思って、そういうキリンたちが性選択に勝ち抜いてきたかもしれない。

毛利さんにとっては、人類も「空を飛びたい」という意志を強く持っていて、それはレオナルド・ダ・ビンチも考えたし、やがて飛行機が作られ、ロケットが作られ、そうやって人類は大気圏を越え宇宙にも進出した、と捉えておられるのだと思う。
アフリカ中央部でサルから進化した人間が、なぜかくも長い距離をひたすら移動していったのか、方向音痴の私にはまったく信じがたいのだが(だって、のたれ死にそうだし>あたし)、その事実は化石としても、世界各地の人間集団のDNAにも残っている。
きっと、新天地を求めて動く、という基本的な性質が、一定の割合の人間に備わっていたからこそ、人類は地球の大陸を埋め尽くし、宇宙に飛び立つことになったのだろう。
そう、チャレンジすることこそが人間の本質なのだ。

【追記】毛利さんの一回目の宇宙飛行の同士にメイ・ジェミソンがいたとは知らなかった。
先日TEDでパフォーマンスを見たばかりだったので。
彼女はとても多彩な方で、「アートとサイエンスの融合を!」という活動をされている。
Mae Jemison on teaching arts and sciences together
by osumi1128 | 2012-06-26 08:33 | 書評 | Comments(0)

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