昨日などは、しっかり梅雨でした。
ところで、先日、元三重大学学長の「つぼやき」ブログのアクセス数がものすごいことになった、というお話でしたが、関連したデータを示しておきます。
この10年間で若手教員のポストがいかに減ったか、これをなんとかしないと日本の教育も研究も科学技術振興も駄目になりますよ、ということです。

資料の元はこちら。
いろいろな問題というのは、一つの原因だけで生じるものではありません。
アカデミアポストの減少減少に至った要因には以下のようなものが考えられます。
・少子化による学生数減少に対応するため+日本の研究力を増すために「大学院重点化」政策が撃ちだされた。
・大学院重点化により、大学院生の定員を増やすために大学院生の指導ができるとみなされる「教授」ポストを増やす必要が生じた。
・教授を増やすために、教員の定員枠の助手(当時)や講師の分を減らして、教授ポストに振り替えた。
・大学院を修了する博士人材ポストとして「ポスドク1万人計画」が打ち出され、その後もポスドクは増え続けた(現在1万5千人程度)。
・(上記の図は平成10年と平成19年の比較なので、まだ反映されていませんが)年金受給年齢引き上げに対応して、大学教員の定年延長をし、若手ポストの空きが出るのが遅れている。
「つぼやき」の豊田先生が挙げられた図はこちらです。

2006年を境にした減少が、他国と著しく違うことが見えますね。
「大学の職階別教員数」グラフでいうと、助手・助教のポストが底を打った(だとよいのですが)のが2006年です。
21世紀COEの次の施策でグローバルCOEが開始されたのが2007年度、つまり法人化以降に為されたいろいろな「大学改革」で、研究の実行部隊の中心となるべき助教クラス人材は減り、教授は増加した大学院生の指導(メンタル含め)に加えて、種々の書類書きも膨大なものになって疲弊した、というのが私の見方です。
もう一つ、日本学術振興会特別研究員のPD(博士研究員レベル)の申請にあたり、人材の流動性を桝ために「研究室を変更すること」が義務付けられたことも、せっかく手塩にかけて育てて、さぁ、学位論文に加えてもう1つ2つ書けたらいいね、という段階の人材が、新しい研究環境に移って、そこで一からはじめなければならない、ということも論文数に影響したのではと考えます。
今、なんとかしないと、この国の人材育成は駄目になると思います。
なら、どうするか、次のブログに書くつもりですが、ご意見コメントとしてお寄せ下さい。

最近、大学の教官やポスドクを眺めていると、あまりにもストレスを受けすぎて楽観主義的になっている印象を受けます。危機感も過剰に溜め込みすぎるとかえって能力低下がもたらされると思いました。



最近政府が進めているこの政策のために、元々女性のPDが少ない私の研究分野(システム神経科学)では、女性や外国人なら非常に低い競争率でPIに採用されてしまい、その結果、経験・実力のないPIが多く生まれています。そしてただでさえ少ない若手PIのポジションの一部をそのような能力の低い人材が占めることになっています。さらにその結果、そのような女性・外国人よりも能力の高い日本人男性PDがPIの職に就けず、他職種への転職あるいは海外の研究職への就職を余儀なくされています。これでは日本の論文数が停滞・減少するのも当然のような気がします。

もちろん女性や外国人研究者を増やすことに異論はありませんが、そのような政策は、元々「日本の研究レベルの向上」という目標のもとに進められているのであるのですから、女性・外国人優先採用によって逆に論文数などの研究レベルが下がってしまうのは本末転倒です。言うまでもなく、研究のレベルを下げずに、女性・外国人研究者の割合を増やす取り組みをしなければ意味がありません。そのためには、性別・国籍に関わらない公平な競争を維持しつつ、なぜ女性・外国人研究者が少ないのか?という直接の原因を探ってそれを解決させることが不可欠であると思います(米国では業績が同様のときにだけ女性を優先採用するという制度をとっているので、それにより研究のレベルが下がることはありません)。
「女性・外国人PIは増えたけど、その多くが三流研究者ばかり」ということにならないように、現在の政策の早急な転換を切に願います。
日本の女性研究者は2006年から急に増加した訳ではありませんね。外国人研究者もしかり、です。増えた分の絶対数は微々たるものです(そもそも女性は13%程度しかいない)。ですので、論文数の急激な減少との相関性は低いと思われます。また、そもそも論ですが、「女性・外国人PIは増えたけど、その多くが三流研究者ばかり」という偏見には同意しかねます。
また、「業績が同様のときにだけ女性を優先採用する」というのは日本でも一般的な考え方だと思います。東北大学では女性枠を設けて人事を行なっている訳ではありませんが、この数年の間に優秀な女性教員を採用できています(例えば、最先端研究の採択者等)。
ともあれ、(男女含め)若手のポストが少ないことにより、「女性・外国人が優遇されているからだ!」というご意見を持たれるのは、もっともなことだと思います。
「なぜ女性研究者が少ないのか?」については、例えば下記の資料を読まれることをお勧めします。
http://annex.jsap.or.jp/renrakukai/enquete.html
経済成長との相関は同じ報告書には載っていませんが、科学研究費の総額がだいたい2000頃で頭打ちになっている、という事実はあります。
1970年代の論文数等の報告については見たことがありません。データベース化されていない頃なので、集計が難しいと思われます。
論文数激減の理由は企業からの論文発表が減少したからである、という分析が為されています。別エントリーを御覧ください。

ということは、2000年ごろまでは科学研究費は増え続けてきたということですね。

>「業績が同様のときにだけ女性を優先採用する」というのは日本でも一般的な考え方だと思います。
とのことですが、残念ながら大手就職サイト等を見ていると以下のような公募がしばしば出ています(この例は工学系ですが生物系でも同様です)。
機関名 : 香川大学
タイトル : 知能機械システム工学科の准教授、講師、もしくは助教(但し、女性限定とする)の公募
このような男性が多い分野において女性限定の公募をしたら競争率が通常公募よりもかなり低くなるはずなので、通常公募と同じレベルの研究者が採用される可能性はとても低いはずです。したがって全体として見たら、このような女性限定公募が日本の研究レベルを少なからず低下させているのは明らかです。
もちろん私もそれが論文数の急激な減少の主要因ではないとは思いますが、女性限定による低倍率での公募によって採用されたPIがただでさえ少ない若手PIポストの一部を占めていることを考えると、「無関係」として一蹴してしまうのは乱暴すぎるのではないでしょうか。

女性優遇公募は肌身で感じますが(米国でもよくしゃべる女性ほど採用されます)、それをいってもしょうがないというのが現状でしょうね。
ただ、元々学部、大学院の段階から女性が少ない分野で、教員だけの女性比率を短期的に、短絡的に上げようというやり方が気に入りません。本来なら、学部などの男女比を考慮して、教員側も調整するか、何より、任期なしの高齢連中が男ばかりでどけようがないのを、これからの採用だけで是正しようとするという構造が間違っています。この構造がポスドク問題とも似ているんだと思います。
そもそもとして、男女平等、機会均等が大事なのであって、本来的な男女比率などは問題となるべきではないのですが。
横やり失礼しました。日本には戻れない一人として、少し提言させていただきました。


先生のおっしゃるような「業績が同様のときにだけ女性を優先採用する」という考えが全研究機関で徹底され、女性限定公募がなくなることを切に望みます。
機関名 : 首都大学東京
タイトル : 公立大学法人首都大学東京の専任教員公募(都市教養学部理工学系生命科学コース・准教授)ゲノム、多様性、バイオイメージング(女性限定)
研究分野 : 生物学 - 基礎生物学
複合新領域 - ゲノム科学
職種 : 准教授相当
勤務形態 : 常勤 (任期あり)
募集終了日 : 2012年10月01日
URL : http://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=4&id=D112080364&ln_jor=0