祝:大隅良典先生第28回京都賞ご受賞!
2012年 11月 11日
今年は、Ivan Edward Sutherland博士(先端技術部門)、大隅良典博士(基礎科学部門)、Gayatri Chakravorty Spivak教授(思想・芸術部門)の3名に栄えある賞が授与されました。
サザランド博士はコンピュータ・グラフィックスや対話的なインターフェースの技術開発に関しての先駆的な業績を挙げられた方です。
またSpivak教授は、京都賞で初めてのインド国籍の受賞者で、『サバルタンは語ることができるか』という代表的な著作に表されるように、現代の「知と権力の共犯関係」を深く掘り下げるとともに、教育者として故郷やバングラデシュの農村での識字教育などを実践されています。
本ブログでは、もっとも分野の近い大隅良典先生について、一般向け講演会「酵母から見えてきたオートファジーの世界 —細胞内リサイクルシステム」の内容からレポートしたいと思います。
画像は基礎生物学研究所プレスリリース(2009年8月10日)より
Developmental Cell電子版 7月21日号 掲載論文から引用
酵母は単細胞ですが、お酒やパン作りなど、もっとも古くから人類が利用してきた微生物です。
生命科学研究の上では、私たちヒトと同様に、細胞の中に「核」という構造を持つ「真核生物」であり、さまざまな生命現象の理解のために格好のモデルとなっています。
良典先生は、この酵母菌の「液胞」という細胞内構造に着目しました。
従来、液胞は「ゴミ溜め(本人談)」であって、細胞内の不要な物質が貯めこまれるだけの、どちらかといえば受動的なものだと思われていました。
ところが、良典先生は、酵母が飢餓状態に置かれた際に、液胞には球状の構造(autophagic bodies)が多数生じることから、「もっと積極的に細胞内消化(オートファジー)に関わっているのではないか?」と考えたのです。
液胞の中には、ミトコンドリアのような細胞内小器官が丸ごと入っていることもありました。
エネルギー産生工場として不具合が生じたミトコンドリアが、積極的に液胞の中で分解され、ミトコンドリアを構成していたタンパク質などをリサイクルするのではないかと予測したのです。
まず、タンパク質分解酵素の欠損した酵母菌の「株」を手に入れて調べてみると、予測通りに液胞のautophagic bodiesの出現が認められませんでした。
そこで、オートファジーの分子機構を明らかにするために、大々的なスクリーニングを開始しました。
酵母は、短期間に多数の遺伝子変異株を作成することが容易であり、大隅研では38000株の酵母菌から、最終的にオートファジーが異常になる14の変異株を見つけ出しました。
そして、それらの変異株から原因の遺伝子を次々と明らかにしていったのです。
現在では、オートファジーは酵母だけに見られる現象ではなく、例えばマウスの胚発生にも必須であり、長生きする神経細胞の細胞内浄化などにも関わることが知られるようになりました。
まさに、オートファジーの世界は大きく進展しており、良典先生の先駆的なご業績は今回の京都賞の基礎科学部門に相応しいものといえます。
今回、ご講演で良典先生のキャリアパスを初めてお伺いしたのですが、20代後半に職のない(奥様の萬里子先生に扶養されていらした)時代もあり、東大駒場の助教授になって、大々的にオートファジーの研究テーマに変えられたのが43歳の頃、さらに、大きくご研究を発展された基礎生物学研究所に教授として着任されたのが51歳と、比較的ゆっくりとしたキャリアパスであったというのは意外でした。
「他人と争うのは苦手なので、なるべく流行ではないテーマを選んだ」というのも、オリジナリティーのある研究をする上で大事な視座ですね。
ともあれ、オートファジーの研究は日本が圧倒的に世界をリードしており、大隅先生のお弟子さんでは、吉森保さん、水島昇さんなど、すでに教授になられた方々も多数いらっしゃるのは素晴らしいことです。
ご講演をしめくくるにあたり、良典先生は、現代の生産過剰気味の社会への警鐘とともに、基礎科学研究の重要性を強く訴えておられました。
オートファジーの研究が哺乳類に広がって、アルツハイマー病、癌、免疫等との関係も明らかになってきましたが、良典先生が酵母菌の液胞の興味深い現象に着目した四半世紀前の時点では、どのような応用面があるのかは未知であった訳です。
私も常に言い続けていることですが、生命科学研究は「多様性」が重要であり、いろいろな畑に広く種を蒔いて、それなりに水をやり続けなければなりません。
次の「芽」はどこから大きく育ってくるのかはわからないのですから。
今回、授賞式関連行事では分子生物学会関係の方々に多数お目にかかり、「もしかして、良典先生のご親戚ですか?」というご質問も多数頂きましたが、そうではありません(笑)。
ともあれ、同じ酵母菌の研究をしていた母を介して、良典先生のお話はずっと昔から聞いていたので、今回の京都賞の受賞はとても嬉しく思いました。
良典先生、東工大で、ますますのご発展を!
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