デカルトの密室

社会復帰1日目は予想よりも積み重なった書類は少なくほっとした。
それでも、出張中の200通を超えるメールを仕分けし、一部はすでにシドニーから返事をしているが、そうでないものにレスポンスをして、あっという間に11時となる。
今日からラボは公式には夏休み明けだ。

さて、昨日投稿できなかった話だが、シドニー出張中に瀬名さんの最新作『デカルトの密室』を読んだ。
こういう本はどんなジャンルに分類されることになるのだろう?
SFというよりは現実的だし、ややミステリー仕立てでもあるが、そういう謎解きが中心という訳でもない。
現代社会あるいは近未来社会における様々な問題、例えば、人型ロボットが殺人を犯したらどう扱われることになるのか、究極のユビキタスな社会が到来したらどうなるか、人間性とは、ロボットらしさとは、意識とは、言葉とは・・・などが扱われている。
なんとタイミングのよいことに、この物語の中で取り上げられているディテールはちょうど先日仙台であった進化学会のシンポジウムで見聞きしたことや、日米先端工学会議のセッションテーマ、神経科学学会の中でのシステム神経科学や認知科学分野などで話されたことに大いに関係していて、非常に興味深かった。
実際、瀬名さんは「けいはんな社会的知能発生学研究会」における議論を本書に生かしたと謝辞に書いておられ、この本の中心人物?として多数の(正確には無数の)ヒューマノイド(本書ではしばしば「擬体エージェント」と呼ばれている)が出てくるのだが、それは大阪大学の石黒さんのアンドロイドの研究を大いに参考にされたらしい。
「意識の進化」のセッションで初めて石黒さんが開発されたアンドロイドの動きを見たが、本の中では瀬名さんの筆力によってさらにリアルな登場人物?として描かれている。
ロボットが人に似てくると、逆にあるところから気味悪く感じるようになるという反応を人は示すという研究について先日触れたが、その話は実は1970年代にすでに「不気味の谷」として想定されていたということを本書によって知った。

ところで今気が付いたが、上記の「不気味の谷」がどこに書かれていたかを本の中でもう一度検索するのは非常に難しい。
私は、プリントした論文は別として、普通の本に線を引きながら読むのがなんだか本にもったいない気がして抵抗がある。
せいぜいポストイットの付箋を貼るくらい。
学生の頃は教科書にラインマーカーやボールペンで線を引いたが、今はそれさえもできない(他人がする分には構わないが)。
人気作家?タレント?の斎藤某氏の本には3種のボールペンで「非常に大事なところ(赤)、やや大事なところ(青)、個人的に気になるところ(緑)」と線を引きながら読むべし」とアドバイスされていて、これはもっともだと思うのだが実行が難しい。
自分で「色分け」しながら線を引くという能動的動作は「視覚野&運動野&連合野」を複合的に使うものであり、記憶に残りやすかったり、ひらめきをもたらす効果があることは容易に想像できるのだが。
今も、「不気味の谷」を検索しようとしたが諦めた。
「ページの右側の半分より右側の行の上の方に書かれていたはず」という視覚的な記憶は残っているのだが、それだけで467ページの本文を、いや、あまり最初でも最後でもないことも覚えているから、約300ページ分くらいを検索するという作業は、本当に何も他にしたくないほど弱っているようなときしかできそうにない。
それに比べると昨今の検索エンジンの素晴らしいこと・・・
という訳で、「不気味の谷」の初出については、後でインターネット検索する方がきっと楽だし早いと考えて、本を読み直すのは諦めた。

かように、今の私は外部メモリに頼った生活を送っている。
by osumi1128 | 2005-09-08 23:13

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