コピペルナー
2013年 01月 31日
授業を担当するということは、受講した学生さんの成績を付ける必要があり、おそらく他の科目はいわゆる定期試験が多いだろうと思って、レポートのみで成績判定する、というスタイルを続けていました。
大学受験までの「最短で問題を解く」スタイルの勉強から、「じっくり仕上げる」ことも学んでほしいと考えたからです。
私自身、大学教養の間の生物学の勉強は、授業から何かを学んだというよりも、数通のレポートを書いたことから得たものが大きかったという理由もありました。
そのレポートは以下のようなスタイルに決めてありました。
・最低5000字
・2本以上の参考文献を読む(参考文献の挙げ方も指示)
・テーマに沿って自分で独自のタイトルを付ける
・小見出しを付ける
・「はじめに」と「あとがき」を書く
・なるべく図を載せる
・表紙にタイトル、目次、参考文献を挙げる
テーマは細胞分化、幹細胞のような基礎的なものから、遺伝子治療、エイズ、再生医療のような医学よりのものまで10個程度取り上げ、自分で例えば「神経細胞の分化について」などのタイトルを付けてもらうという具合です。
レポートのルールを説明すると、高校までにそんな長い文章をほとんど書いたことが無い学生さんが大多数なので、「5000字ぃー!?」というどよめきが聞こえます。
でも、「あとがき」を読むと「初めてこんなに長い文章を書いたが、面白かった」的な達成感を感じている学生さんも多くみられました。
レポートなら試験監督はしなくて済む訳ですが、その採点は、はっきり言って試験よりも時間がかかります。
受講生の数は100名は越していたと思うので、かなりしんどいものでした(苦笑)。
でも、毎年ものすごく良い作品が3/100くらいの確率であるので、それを読むのはとても幸せでした。
若い学生さんの荒削りながら豊かな才能に触れることができるのは、教員としての大きな喜びです。
でも、良いレポートがあれば、当然ながらそうでないものもあります。
手書きで字が汚いのは、私自身もそうなので仕方ないと思っています。
問題は、盗作や剽窃です。
ちょうど私が着任したころは日本社会のIT化が徐々に進みつつある時代だったので、PCで文章を書く時代に突入していました。
それに伴って「コピペ」で作られたレポートが増えてきたのです。
例えば「癌遺伝子」などをテーマに選ぶと、まぁ、某研究所などのサイトで調べ物をし(それ自体は悪いことではく、むしろ当然なのですが)、そのページを「そのまま」コピペってレポートにする、という訳です。
これ、実は読んでいるとすぐわかるのです。
「はじめに」や「あとがき」の書きぶりと、明らかに異なる調子の文章が間に挟まれているのですから。
で、「参考文献」として挙げたURLを手打ちして検索して行き着く場合もあるし、怪しい文章についてGoogle先生に訊いてみると御託宣があったりするのですね……。
これは、読んでいてとても悲しくなることです。
最初から「誰かのレポートを写したものは不可。本文がコピペで作られたものも不可」と言い渡してあるので、そんな盗作レポートには「これはコピペです」とコメントを添えて返します。
すると学生さんによっては「なぜ、教科書の一部を丸写ししているレポートが通って、これは駄目なのか?」と訊いてくる場合もあります。
それに対しては「教科書を写す作業は、まだ前頭葉を使っているけど、コピペはほとんど反射なので駄目です」と答えていました。
小説家になりたい方のトレーニングとして、自分の好きな作家の文章をまるごと書き写して、そのリズムや文字の使い方を体得する、ということを聞いたことがあります。
手書きでなくても、文字をタイプするのと、コピペの間には大きな差があると思います。
今日、こんな話題をブログに書いたきっかけは、「コピペルナー」というアプリがあることを知ったからです。
まぁ、イタチごっこのような気もしますが。
学生さんのレポートも科学論文も根っこは同じだと思っています。
「私たちは科学に対する愛と誇りと誠実さをけっして忘れてはならないと思います。」
ちなみに、この1文は東北大学の研究倫理リーフレットの言葉を下敷きにしています。