SSH運営指導委員会、サンデル先生白熱教室、脳科学若手の会ウィンタースクール

雪の秋保から戻って来て、市内もやはり少し降っています。
今年は本当に雪の多い冬ですね……。
まとめて3つの話題なのですが、根っこのところは同じです。

金曜日、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている古川黎明高校に行ってきました。
今年度3回目の運営指導委員会で、これまでの活動と来年度以降の計画について意見交換がなされたのですが、その折にこんな意見が出されました。
生徒さんたち、よく課題をこなして立派な発表もしているのだけど、質疑応答の際、よくよく聞いてみると発表内容の中に矛盾があったりするのに、それを突っ込んだりしないで、単に感想を述べるのに留まっている。科学の基本は健全な批判精神にあるので、それも学んで欲しい。(大隅の意訳です)

それに対して、どなたかの委員が「日本人は<知>で議論しないで、<情>の議論になってしまうからですね」というようなコメントをされていました。
確かに、そういう傾向はいろいろなところでありそうですね。

今年の活動の最後のメイン・イベントは西海岸の体験ツアーです。
訪問先が素敵で、GoogleやAppleの本社、コンピュータ博物館、地元の製薬ベンチャー企業、スタンフォード大学など盛りだくさん!
Appleお膝元のクパチーノ高校でランチを取って、そちらの高校生との交流会(東日本大震災被害の報告など)もあるようです。
この準備にご尽力くださっているのは、製薬ベンチャー企業にお勤めの赤間さんや、スタンフォード大学の池野さんです。
本当にありがとうございます。
地元紙『大崎タイムズ』の元旦特別号にも、高校生たちのツアーへの期待が掲載されていました。

で、その日の夕方に『サンデル先生白熱教室in東北大学』の収録が川内萩ホールであり、桟敷席(←初めて!)から見学しました。
生(なま)サンデル先生も初めて!(←ミーハーww)
萩ホールが2階席まで完璧に埋まるくらいの大入り満員!
さすがサンデル先生は仙台でも人気です♫

サンデル先生の最初の一言。
ここ仙台での教室は特別です。いつもは<仮定>の議論をしていますが、今日はそうではなく<現実>について話さなければなりません。それはとても大変なことだと思っています。

実際、最初の話題は「汚染土を撤去するのに置き場所が決まらず除染作業が進まない。どうするか?」というものだったのですが(ちなみに、私はcontaminated soilという言い方も<汚染土>も好きな言い方ではありません。「放射能レベルが通常よりも高いレベルの土壌」ということですね)、実際に福島の現地の方なども来られていて、「If」ではない話は重いものがありました。
あるいは、「自主避難している方にも経済的な保障をするかどうか?」なども、そういう方を身近で見ている方の意見などは、かなり気持ちで引きずられているところがありました。
あ、ちなみに、パンフレットが表裏が紅白になっていて、聴衆全員も意思表明をすることによって参加型にしてありました。
実際、萩ホールの客席全体が赤白かなり半々の答えが多かったと思います。
「民生委員として、自分の命を投げ打ってでも相手を避難させるべきか?」という問いは、本来であれば、ハーバードの大学生たちが「もし」という仮定で考えて、究極の意見同士を戦わせたりするのでしょうが、「自分は消防士で、原発事故の後すぐに現地に向かったのですが……」という方も発言されて、リアルな現実を思い出したのでした。
最後の問いが「復興を進めるのに、すべての人のコンセンサスを得るべきか(ただし、それには時間がかかる)、それとも、早く進めることを優先すべきか?」というものだったのですが、こちらは聴衆の意見は後者の方が6:4か7:3くらいで多かったように思います。
地元の人間として、これも「仮定」の問いではなく、現実的な問題として、まだ復興が本格的には進んでいない、という苛つきが背景にあったように思います。
この意見の中で「全員の合意consensusは無理でも納得understandingしてもらうことが大事」というものには、自然に拍手が湧いていました。
最後の方で、一般公募から4倍の確率で参加されたとある女性が、「東北の人たちは意見を言うのが苦手だろうと予測していたが、諦めないで自分の意見を言うことが大事だとわかりました」と話していたのが印象的でした。

日は変わって、土曜日から日曜日、脳科学若手の会東北部会主催、脳神経科学コアセンター共催のウィンタースクールが地元の秋保で開催されました。
すべて若手の人たちが企画運営しているウィンタースクールは、今回が2回目。
今年の特別講師は井ノ口馨先生で、お題は「ハイインパクトな研究を行うために何をすべきか?」でした。
途中で出てきたキーワード
データに対する自信
YMWY:やってみなくちゃわからないよ!
潜在意識
リラックス:ユーリカ!
一言で述べる

「天才ではない研究者がハイインパクトな研究をするには」ということで、「なるべく大きな問いを立てる」「とりあえず船を漕ぎ出して順次島を訪ねて行くのではなく、最初にどこにたどり着きたいのかを考える」「<できる>という自信を持つ」などのヒントを頂きました。
ちょうど3年ほど前にセミナーに来ていただいた際にも、「もしかしたら、脳科学は今ちょうど、物理学における15世紀くらいなのかもしれない。皆さんの中に、明日のガリレオやニュートンがいるかもしれない」というお話をされていらっしゃいました。
21世紀は本当の意味で脳科学の幕開けなのかもしれませんね。

井ノ口先生は、夕食後のポスターセション、その後の懇親会、さらに二次会?にもお付き合い下さって、「君たちは批判精神が足りない!」と、朝まで若者たちを煽っていらしたようですww
「でも、僕らが反論すると、すごい<慈愛顔>で聴いてくれてるんですよ!」と、朝、嬉しそうに学生さんが話していました。

今年2回目、教務室からポスター・パネルを借りてくるなど、予想以上の交渉力に驚きました。
分子からシステムから脳画像や理論まで、広い範囲の脳科学を垣根を低く話を聴ける良い機会と思います。
この人脈は10年後、15年後に、利子がついて返ってくると思います。
「2月は東北でウィンタースクール」が定着すると良いですね!

【参考リンク】
富山大学大学院 医学薬学研究部 生化学講座(井ノ口研究室)HP
" target="_blank">教授からのメッセージ
拙ブログ:近況:医工学セミナー@神戸、井ノ口先生セミナー@仙台、脳の医学・生物学研究会@名古屋
拙ブログ:祝:井ノ口先生時実賞受賞@神経科学大会1日目
拙ブログ:井ノ口先生と下條先生
SSH運営指導委員会、サンデル先生白熱教室、脳科学若手の会ウィンタースクール_d0028322_21504310.jpg

by osumi1128 | 2013-02-24 14:24 | サイエンス

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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