東北大学ゆかりの女性研究者その2:水野紀子先生(法学研究科長)

東北大学ゆかりの女性研究者その2:水野紀子先生(法学研究科長)_d0028322_10374813.jpg今年は東北帝国大学(当時)に女子学生が入学して百周年なので、シリーズで東北大学縁の女性研究者をご紹介しています。
もっと頻繁にアップしたかったのですが、諸事情により遅れ気味……。
その1でご紹介した原山優子先生は、なんと今月から常勤の総合科学技術会議議員になられました!
総合科学技術会議議員名簿
これからの日本の科学技術政策の司令塔として、ご活躍頂きたいと心から応援しています!

第二回目は昨年度から法学研究科長を務められている水野紀子先生をご紹介したいと思います。

水野先生は、東北大学初の女性部局長であり、これは旧帝国大学の中でも初めて。
法学研究科は比較的早くから女性教授が多くなった部局ですが、部局長はトップダウンで決まるのではなく、ボトムアップに教授会構成員の互選により決定される訳ですから、水野先生が選ばれたということはとても大きな意味があります。
法学研究科メッセージ

水野先生のご専門は民法で、私が水野先生のお名前を知るようになったのは、国の「夫婦別姓制度」についての検討委員会のメンバーであった折に、何かの学内委員会の後の懇談会か何かでご一緒してお話を伺ったのがきっかけでした。
素敵なお宅にお邪魔してお茶をご馳走になったこともありますが、とにかく言葉遣いがなんというか、ほわんと丸くていらして、あぁ、見習わなきゃなぁ、といつも思います……。
厳しいことやキツイことも、水野先生に言われたらするっと腑に落ちそうな気になります。
そういう資質も、部局長というリーダーとして必要なことなのかもしれません。


先日、女性7名の女子会に男性1名という夕食会の折、話題になったのは、性転換して男性となった方がAIDによりパートナーの女性・妻に子どもを産んでもらうのは認められるかどうか、という、サンデル先生のトピックにしてもいいくらいの内容でした。
「AIDが許されているのであれば、元女性であってもその夫に同等の権利はあるでしょう」という意見もありましたが、水野先生は「子どもの側から見たら、自分の父親が実は女性であることを知った時点で、自分の父親が分からなくなり、アイデンティティーの喪失に繋がるのは宜しくない」というご意見でした。
私としては、もはや「ゲノム時代」に突入しており、誰もが自分のゲノムを知ることになれば、性転換はしていない父親であったとしても、生物学的な繋がりがあるかどうかは簡単にわかるようになるので、上記はあまり意味が無いのではないかと考えますが、これも、現時点の国民のゲノムリテラシーをどのように捉えるかによって、賛否両論だと思います。


実はちょうど昨日、日本学術会議主催のフォーラム「初等・中等教育課程における<ヒトの遺伝学>教育の推進と社会における遺伝リテラシーの定着」というイベントがあったのですが、フロアからのご意見として、「遺伝について教える」ことが、むしろ「差別」を生むことになるのではないか、と危惧する声が少なからずありました。
パネリスト側は、個人のゲノムを知ることは多様性の理解に繋がる、という立場にあり、より早い段階でリテラシーを付けることが、むしろ差別を解消するのではないかと考えていましたが、このような意識が浸透するのには、何度も対話が必要だと思います。

ちなみに、基調講演をされた元日本学術会議会長の金澤一郎先生はNPO法人遺伝カウンセリング・ジャパンの理事長をお務めです。
このNPOは次のようなミッションを掲げています。
「遺伝」という言葉をご存じでしょうか? 有名なメンデルのエンドウマメの形質が次の世代に伝わることや、人間の親から子にある種の病気が伝わること、などがいわゆる「遺伝」という現象です。

この遺伝の担い手が遺伝子で、その本体はDNA分子です。ですから、遺伝病はDNAのどこかに異常があって起こる病気です。

我が国では、一般社会の人々の誤解や無理解ゆえに、遺伝病の本人や家族には何の落ち度もないのに肩身の狭い思いをしておられます。ですから、患者さんや家族の人達はもとより、国民全体が「遺伝」や「遺伝病」を正しく理解する必要があります。

最近では、嬉しいことに「遺伝」や「遺伝病」について分かり易く説明してくれる「遺伝カウンセラー」が育ってきました。こうした遺伝カウンセラーの方々のもてる能力を十分に発揮してもらえるように、活動の環境を整備し、活動を支援し、その結果として社会全体の遺伝リテラシーの向上を図ることを目的として、私達はNPO法人を設立いたしました。

皆様のご協力を心からお願い申し上げます。

理事長 金澤一郎


ちなみに、東北大学大学院医学系研究科では、遺伝カウンセリングコースを開設しています。
医学系研究科の各種教育コース

このフォーラムにパネリストとして参加して、基礎医学研究者の生命倫理リテラシーも同様にもっと上げる必要があるのではないかと感じました。
普段、研究室の中だけで生活している研究者は、社会との接点が少ないので。
また追ってこの話題は取り上げたいと思います。

【関連リンク】
東北大学ゆかりの女性研究者#1:原山優子先生
by osumi1128 | 2013-03-02 11:07 | ロールモデル

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