7学会緊急声明

「日本版NIH(仮称)」に関する生命科学系7学会の共同声明発表の記者会見を行うために、お昼前から東京に行ってきました。
先週ブログに書きましたように、官邸主導で進められている「日本版NIH(仮称)」構想について、(1)(本家のNIHのように)医療に繋がる研究を一気通貫に一元化して支援すること自体は試してみてもよいが、その仕組み作りのときには研究者の意見もちゃんと聞いて下さいね、ということと、(2)その予算をどうするかというときに、ボトムアップな基礎研究を無くすようなことはしないでね、という趣旨の共同声明(明日、各学会HPにアップ予定)を7つの学会(日本生化学会、日本癌学会、日本細胞性物学会、日本免疫学会、日本神経科学学会、日本ウィルス学会、日本分子生物学会)の賛同のもとに作成し、まずは、官邸にお届けしました。
菅内閣官房長官宛の書面を、世耕副官房長官に直接お渡しして取次をお願いし、野田先生(癌学会)と石川先生(生化学会)とともに、10分ほど副官房長官室で面談しました。

その後、厚労記者クラブで7学会の代表が集まっての記者会見となり、野田先生が司会をされ、声明とりまとめ役であった石川先生が趣旨説明を行い、質疑応答となりました。

出口を見据えた基礎研究ではない、生命分野の真理の探究という基礎研究を行う研究者も多数抱える分子生物学会の立場からは、自由な意志に基づくボトムアップ研究の重要性と、そのことを通じての研究人材育成の面を強調しました。

集まられた記者さんが厚労記者クラブ系ということもあり、本当は個人的にはもう一つ言いたかったことがあったのですが、それは胸に仕舞って帰って来ました。
何かというと、生命科学分野の基礎研究それ自体も、他の自然科学分野の基礎研究と同様に「文化の一部である」ということです。

ずっと前に、たしか岡田節人先生が文化功労者になられたときのことだったか、岡田先生が皇居に参内されたところ、そのとき同じように選ばれた人間国宝の方が「最近は、科学の分野の方も選ばれるのですね……」と話された、というエピソードを伺ったことがありました。
その芸術家にとってみれば「文化勲章や文化功労者というのは、芸術、文学、そういった<文化>に対して与えられる栄誉」であって「科学は、ちょっと違う」というご認識だったのでしょう。

でも、亡くなられた昭和天皇も、今上天皇も、生物学者としての側面もお持ちですし、秋篠宮殿下は国産の鳥類のゲノム研究をPNAS誌に発表されています。
降家された紀宮清子内親王も、山階鳥類研究所の研究員をされていたと思います。

例えば、シンガポールも科学技術には力を注いでいますが、多様な自然科学の研究分野をすべてカバーするという国策は取らず、生命科学系では幹細胞研究や、癌、免疫、感染症、神経科学などの医学応用可能な分野が中心です。
そのことを悪いというつもりは毛頭ないのですが、日本において「いつ役に立つかはわからない」研究を行うことができれば、それは国としての成熟度や豊かさを表すものであろうと思うのです。

生物学の研究も文化の一部です。
問題は、今の日本がどの程度、そういう「出口の見えない」基礎研究をも支えられるかでしょう。
ルネッサンス期のようなパトロン、どこかにいませんかね?
ロードマップを作りなさい、とか、これこれには資金は使えません、とか言わないで、「あなが最もエキサイトするようなサイエンスを見せて下さい」と自由と身分の保証を与えて頂くのが、いちばんのイノベーションの近道かもしれない、なんてことを夢想します。

註:本日のエントリー後半部分は、執筆者個人の意見であり、所属する組織の立場を表すものではありません。

【各種リンク】
7学会共同声明(日本分子生物学会HP掲載PDF)
NHKニュース:日本版NIHに7学会が声明
共同通信:日本版NIH創設で学会が声明 基礎研究縮小の懸念
拙ブログ:「日本版NIH」じゃぁだめでしょう
by osumi1128 | 2013-06-10 20:32 | 科学技術政策

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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