小保方さん関係(その6):「万能細胞」は<万能>ではない

小保方さん関係(その6):「万能細胞」は<万能>ではない_d0028322_07443087.jpeg註:STAP論文はその後、7月2日付で取下げられ、STAP細胞とされたものの実体はほぼES細胞であることが専門家による詳しい調査の結果、報告されています。

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本日よりソチ・オリンピック開催。
で、小保方さん報道、やや下火になった感もありますが、新聞に関連連載記事が出るなど、思ったより持続していますね。
(右図は朝日新聞の記事より転載)

一般向けの良い解説記事として以下をお薦めします。
元理化学研究所発生再生総合研究センター(CDB)副センター長の西川伸一先生のNPOサイトより

こちらは、日経バイテク編集長である宮田満さんのコラム
(MUSE細胞が何かについては末尾参照)





さて、先日、科学コミュニケーションが専門の北大のS先生からご連絡があり、「<万能細胞>という用語がなぜ<メディア用語>だとして問題なのですか?」というご質問がありました。

科学的な観点からは、その生き物の「すべての」細胞を生み出すことができる「受精卵」(有性生殖を行う生き物としては)は真の意味での「万能細胞」なのですが、それ以外の「幹細胞」、つまり「タネのような細胞」は本当に「万能」かは検証しきれないので「多能性幹細胞」と呼ぶのが正確です。
しかも、その細胞がどれだけ「多能性」を持つかについては、査読者の厳しい評価を乗り越えて確かめられて論文に記載されます。

もう一つの観点は、「万能細胞」という言葉が一般にひとり歩きすると、医療への応用を期待する患者さんやそのご家族にとって誤解が大きくなるという点です。
「万能細胞」と呼んでしまうと、元祖万能細胞のES細胞や、倫理的に問題のない方法で作られる万能細胞として画期的なiPS細胞や、(当時)第三の万能細胞という見出しもあったMUSE細胞や、今回の新型万能細胞であるSTAP細胞や、これからさらに開発される別のやり方でできるかもしれない万能細胞が、あたかも「どんな治療にも役立つ」という「万能感」をイメージさせてしまう、ということが問題であると思われます。

S先生は、もし前者の点であれば、科学用語としては「質量」と言うのが正しいが、一般には「重量」などと呼ばれるではないか、でもまったく問題ないでしょう、という点をご指摘になったのですが、私は第二の点もあるので問題なのです、とお伝えして、納得して頂きました。

最近はマスメディアの方々もそのあたり敏感になってこられたので、しばらく前よりはマシかもしれませんが、今回のSTAP細胞報道では、より広いメディアに広がったので、再度「万能細胞」という用語を見かけることが多くなりました。
上記に掲げた細胞たちがどれだけ移植医療等に役に立つのかについては、これから1つずつ検証していかなければなりません。
また、ヒトでの誘導が確立されているiPS細胞などは、患者さんの皮膚の細胞などを使って、病気のメカニズムを知るという基礎研究としての応用の方向性もあります。
実際、例えば脳に関係する病気(精神疾患など)については、肝臓や腎臓と違って「バイオプシー」などは行いにくいので、とくに成果が期待されているところです。
小保方さん関係(その6):「万能細胞」は<万能>ではない_d0028322_10343176.jpg
iPS細胞を用いた最初の治療については、小保方さんと同じCDBに所属されている高橋政代先生の結果が楽しみです。
2012年12月の時点で、厚労省の倫理審査体制が整備されて、ようやく昨年2013年から開始されたところです。







小保方さん関係(その6):「万能細胞」は<万能>ではない_d0028322_08185151.jpegMUSE細胞についての日経バイテク記事はこちら(2010年記事)


by osumi1128 | 2014-02-07 08:20 | 科学 コミュニケーション

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