STAP細胞を前提にしないと説明できない?

註:やはりその後、STAP現象は再現できず、下記にも記しているように、STAP細胞とされたものはほぼES細胞であることが判明しました(一部はTS細胞も混入されていた)。

日経サイエンス3月号に古田彩氏と詫摩雅子氏による詳しいまとめ記事が掲載されています。

*****
「ソチ・オリンピックまでか?」と当初思ったSTAP細胞騒動がまだ続いています。
本日はNature論文の責任著者でもあり、理化学研究所発生再生科学総合研究センター(CDB)副センター長の笹井氏の記者会見が都内で行われました。

本人説明が45分、質疑応答合わせて全体で3時間以上の会見だったとのこと。
200名もの報道陣の方々も、十分に聞きたいことを質問できなかったのではないでしょうか。
残念ながら全体の動画を見る時間が取れていないので、理研の用意した資料について、気になる点を挙げておきます。
STAP細胞を前提にしないと説明できない?_d0028322_22390657.jpg
こちらの2頁目に「STAP現象(←STAP細胞とは言っていない)を前提にしないと容易に説明できないデータがある」の例として3つ挙げられています。
これらについて、「STAP現象」ではなくても説明できるのではないか、という私見を記します。

A) ライブ・セル・イメージング(顕微鏡ムービー)
これは、笹井氏が最後の段階で助っ人として若山氏に「請われて」責任著者になり、リバイスの実験として行ったもの(質疑応答より)ということで、「未分化マーカーのOct4-GFPを発現しない分散したリンパ球から、Oct4-GFPを発現するSTAP細胞特有の細胞塊」が形成されたことを示すものとして提示されたSupplemental Movieのデータを指しています。
資料によれば、「顕微鏡の自動観察なので、人為的な操作は実質上不可能であること、死細胞の自家蛍光とは別」であるとしています。
STAP細胞を前提にしないと説明できない?_d0028322_23223181.jpg

しかしながら、多能性幹細胞の専門家によれば、死にかけの細胞でOct4が発現することがあるのではないかと言われていますので、それはSTAP細胞ではなかったかもしれません。
とくに、お掃除細胞のマクロファージに追い回されているように見える動画(下記)は、緑色の細胞が死にかけの状態であることを示しているようにも見えます。

上の画像は、下記Video2の後半からのスナップショットですが、緑色の細胞の中には細長い形のものもあり、仮にこういう細胞の短径の部分を電子顕微鏡で撮影すれば、とても小さな断面になるかもしれません(下記のB項目関係)。
ちなみに、このムービーの説明では、酸による刺激を加えて培養してから0〜6日目であるとなっていますが、その根拠も示されていませんね。
(より誠実な示し方をする場合には、分や時間のカウントを隅に入れます)
また、ムービーを見て頂くと、まるで細胞質が崩壊するようなシーンも見えます。


B)特徴ある細胞の性質
STAP細胞はリンパ球やES細胞よりもさらに小型の特殊な細胞であるとして、ES細胞とSTAP細胞(仮)の電子顕微鏡画像が資料には貼り付けてあります。
ただし、電子顕微鏡画像は2次元データです。
細胞の切り方によっては、大きな細胞でも小さな断面を示すことは可能です。
こちらは、CDBの電子顕微鏡施設の方で撮像されたものと思いますので、そちらの元データに戻って確認できれば良いのですが。

遺伝子発現パターンについては、現時点で疑義があるようなので、ここでは議論しません。

【追記】例えば以下のような科学者による記事があります。
>Oct4-GFP発現までは正しいと思いますので
正しくないですよ.
今日笹井先生が配られた資料を見てびっくりしました.
「遺伝子発現パターンの詳細解析でも、STAP細胞は、ES細胞や他の幹細胞とも一致せず」
若山先生もトランスクリプトーム解析でSTAPは他の細胞と違うと仰っていました.
ところが,その「トランスクリプトーム解析」で分かることは,STAP細胞と呼ばれるもの同士ですら
「遺伝子発現パターン」が様々であることです

C)胚盤胞の細胞注入実験(キメラマウス実験)の結果
「ES細胞、TS細胞の混ざり物では細胞接着が上手くいかず、1つの細胞塊にならない」と書かれていますが、現在、若山氏が注入した細胞について本当にSTAP細胞(仮)であったの疑義が取りざたされています。
「混ざり物」ではなく、「ES細胞のみ、TS細胞のみ」であれば、細胞接着には問題なく、互いに馴染み合って塊になるのではないかと推測します。

また「胎仔、胎盤、卵黄膜(←哺乳類では卵黄嚢膜が正しい)内胚葉に細胞貢献」するのは、ES細胞やTS細胞の混入では起こりえない、とされていますが、TS細胞はtrophoblast stem cellsとして、胎盤に寄与できる細胞ではないでしょうか?

さらに「内部細胞塊や桑実胚の細胞とも考えにくい」とされていますが、その根拠が示されていません。
そもそも、内部細胞塊が胎仔膜(卵黄嚢膜や胎盤)以外の細胞に寄与できることが知られているのに対し、桑実胚の段階では各細胞に全能性があることについては、胚盤胞注入実験により検証されてきたことではないでしょうか?

以上のような可能性を総合的に判断すると、「STAP細胞が無くても十分説明できる現象である」と考えられます。
是非、多能性幹細胞の専門家の方のご意見も伺いたいと思います。

【追記141101】
理化学研究所の遠藤高帆研究員が、実験に用いられたとされる細胞遺伝子解析結果を論文発表されました。それによると、論文(取り下げ済み)の記載と齟齬があることがはっきりしました。とくに、キメラ作製により胎盤になるとされたFI細胞は、90%がES細胞、10%がTS細胞である可能性が私的されています。上記の予測は正しかったと考えられます。


by osumi1128 | 2014-04-16 23:30 | サイエンス

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