STAP細胞関連ブログコメントなどより転載
2014年 04月 18日
関 由行(許可を得てメールより転載)
関西学院大学理工学部 生命科学科
生殖後成遺伝学分野
1. STAP細胞形成過程における多能性遺伝子の発現変化について。
Nature ArticleのFigure 2bでSTAP細胞形成過程における6種類の多能性遺伝子の
発現変化解析を行っています。
ここで気になるのが、コントロールに用いているES細胞における発現です。
おそらく遺伝子発現をGapdhに対する相対値で計算していると思うのですが、
ES細胞における6種類の遺伝子の発現量がほぼ同じになっています。
過去の論文や自分たちの実験データを見ても、ES細胞において
この6つの遺伝子のGapdhに対する相対量がほぼ同じになることはありえません。
どのような計算を行い、このようなデータを出したのか知りたいところです。
宜しくお願い致します。
ヒトES細胞、iPS細胞を用いた研究を行っている研究者の方より(許可を得て匿名により掲載)
私はSTAP細胞としてblastcystにinjectionされたものは「マウスES細胞をLIF存在下で浮遊培養して作製した細胞塊だったのではないか」と考えております。これはkahoさんという方がブログで、copy number variation(CNV)解析から「STAP=STAP-SC= ES」と記載をされているのを拝見して感じたものです。私の考えはkahoさんのブログ(http://slashdot.jp/journal/578973/オオカミ少年)に「解析、有り難うございました」という題名で投稿させていただいております。以下に骨子をコピーいたしました。
________________________________________________________
小保方氏が、若山教授に渡したマウスと異なる系統のマウスに由来する細胞塊をSTAP細胞と称して渡したことが判明した今でも、STAP細胞の存在を信じる声があることには驚きます。さらに若山教授に対して不信感を抱く声を聞くと本当に呆れてしまいます。
若山教授へ不信感を示す声は、教授が「ES細胞キメラの胎盤はGFP陰性、STAP細胞キメラは胎盤がGFP陽性であった」「通常の方法でSTAP細胞のinjectionを何回も繰り返してもキメラは生まれなかったが、細胞をバラバラにせずに小塊に切り分けてinjectionしたらキメラが生まれた」と言われたことにあるようです。つまり「STAP=ESならば最初からキメラが生まれたはずだし、胎盤でのGFP発現にESキメラとSTAPキメラで差があるという発現は出ないはずだ」ということから若山教授に不信感を抱く人がいるようなのです。
しかし、このことは以下のように考えれば説明ができます。小保方氏がES細胞をSTAP細胞と偽って渡す時には、ES細胞(接着細胞)をそのまま渡すことはできず、「浮遊細胞塊」つまりembryoid body(胚様体;EB)のようにして渡す必要があります(STAP細胞とはそもそも「浮遊した細胞塊」なので)。通常EBはLIFを除いた培地で作製しますが、この場合にはLIF存在下で作製したはずです(STAP細胞の培地がLIFを含有するので)。このためEBほどには分化せず、未分化性はそこそこ保持されていたと考えられます。おそらくEpiblast stem cell(Epi-SC)のようになったものと思われます。Epi-SCはキメラ形成能はありませんが、それはE-cadherin発現がES細胞よりも低いためにICM(内部細胞塊)にうまく取り込まれません。つまりEpi-SCのようになった「通称STAP細胞」をトリプシン処理により細胞をバラバラしてinjectionすれば、当然ながらキメラは形成されません。しかしトリプシン処理をせずに小塊に切り分けてinjectionすれば、トリプシン処理によるE-cadherinの切断が起きないためキメラ形成能はそれなりに保持されると考えられます。さらにマウスEpi-SCがヒトES細胞と酷似していることはよく知られています。そしてヒトES細胞はマウスES細胞と異なりtrophoblastに分化することは有名です(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17363553の論文のイントロをご参照下さい)。
つまり、マウスES細胞をLIF存在下で浮遊培養して作製したスフィア(小保方氏がSTAP細胞と呼ぶもの)は、(1)そのままではキメラ形成能を保持している、(2)トリプシン処理によりキメラ形成能は消失する、(3)ヒトES細胞のようにtrophoblastへの分化能を持つ、と考えることはそれほど無理がないのもと思われます。
このように考えれば、若山教授はご自身が観察された実験事実を正しく伝えていらっしゃることが解ると思います。つまり、今回の騒動は単純に小保方氏単独の捏造事件と考えるのが一番無理がないと思います。
____________________________________________________
私は若山教授は直接には存じ上げませんが、テレビで拝見する限り非常に真摯な方だとお見受けいたします。若山教授の潔白を証明しつつ、かつ笹井氏の「おかしな理屈」を論破することはできないかと思い、文献を検索しておりました。なお上記の書込みに対してはいくつか反論も寄せられましたので(Epi-SCはtrophoblastにならない etc)、全ての事実を正しく説明するものとはどういうものであるべきか、を考え直してみました。
そして「ESキメラとSTAPキメラは作製法が異なっていたことがそのまま答えになる」と思うに至りました。つまり
(1)ES細胞をsingle cellにばらしてblastcystにinjectionすると胎児のみに寄与する(注:胎盤中央部は胎児由来なのでGFP陽性になります。ここで「胎児のみに寄与する」とは「胎盤全体がGFP陽性にはなるわけではない」という意味です)、
(2)ES細胞塊を小塊に切り分けてblastcystにinjectionすると胎児と胎盤の両方に寄与する、
ということではないかと考えてみました。残念ながら(2)に相当する実験を行った文献は見つかりませんでしたが、「8-cell embryoとES細胞塊とを融合させる」という形でのキメラマウス作製を行っている文献が見つかりました(添付)。これは、ES細胞を「細胞塊として取り扱う」(single cellにしない)という意味においては(2)に限りなく近い状況を再現していると考えられると思います。
驚くことに、Fig. 2J, 2KではTrophectodermにES細胞が取り込まれています。これは「in vivoで作製されたiPS細胞はtotipotentである」というHannaらの論文(Nature 502 340-345, 2013)のFig. 4f によく似ています。なお添付文献のtext中には「積極的にtrophectodermに寄与したのではないかもしれない」という遠慮深い表現もありますが、Fig. 5Hでは胎盤(しかも胎盤外縁部まで)が明らかにGFP陽性となっており、textにもそのように記載されています(黄色でハイライトしました。なおここでFig. 5Gと書かれているのはFig. 5Hの誤りと思われます)。
つまり、ES細胞を「塊のまま」使ってキメラマウスを作製すれば胎児と胎盤の両方にコミットする、と考えられるのではないかと思いました。そして、笹井氏の「胎児と胎盤に寄与できる既知の多能性細胞はない」という主張は誤りであると思いました。即ち「STAP細胞の存在を仮定しなければ説明ができない現象がある」のではなく、kahoさんの解析を基づいて考察すれば「ES細胞であったとしなければ説明ができない現象がある」と言うべきと思われます。
若山教授が、コントロール実験としての「ES細胞キメラ作製」の実験においても小塊に切り分けたものをblastcystにinjectionしていらっしゃれば、STAPキメラとESキメラに差があるとは感じられなかったことと思います。そして、ES細胞の混入(取り替え)の可能性についてより慎重に検証をされたことと思います。そうすればSTAP事件も起きなかったと思います。
一方、ネットでは「ESキメラで臍帯・yolk sac・胎盤中央部が光っていないことがそもそもおかしい(Nature Letter Fig. 1a)」という意見や、「ESキメラは胎盤が光らないと言っていることがおかしい」といった意見も出されております。それはそれで正しいとは思いますが、それでは若山教授の観察眼を疑うことになります。私は、若山教授が「ESキメラとSTAPキメラの胎盤の光り方に違いを感じ取った」ことの根拠を明示したいと思い、上記のような考えにたどり着きました。
なお笹井氏が挙げた「STAP細胞存在の根拠」のうち、他の2つは論外であることはすでに周知されているかと存じます。牙城であった胎盤寄与の問題を論破しさえすれば笹井氏の言葉は空虚なものになると思います。