マイナス x マイナス = プラス

東北大学は1913年に旧帝国大学として我が国で最初に女子学生を受け入れた大学であり、昨年はその百周年のお祝いをしました。その折に、平成13年頃から行ってきた男女共同参画関係アクションの今後の展開のための「行動指針」を発表し、いよいよ今年からは「男女共同参画推進センター」が立ち上がりました。これまでの活動の中で、文科省の大学システム改革系の予算を得て自然科学系の女性研究者育成について行って来ましたが、今年度からはすべて大学独自の予算のみで展開し、より広く、人文社会系や男性にも「門戸開放」することになります。

東北大学では、女性研究者育成のためのメンター制度として、「澤柳フェロー」を設立していました。冠にした「澤柳」は「門戸開放」を開学の理念として謳った初代総長、澤柳政太郎の名前に因みます。澤柳フェローは、女性教授の中でメンターになって頂く方にボランティアをお願いするものであり、例えば過日は「ランチ・ミーティング」を行いました。
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フェローも他の皆さんも皆、一律実費参加。集まったのは、女性教員だけでなく、ポスドクや研究支援者も含めた方々や、共同参画センターの方、部局独自の女性研究者育成支援室の方など多様なバックグラウンド。年度最初のイベントでもあり、立場上、冒頭のご挨拶をさせて頂き次のようなことを話しました。

本日は、今年度初めての澤柳フェロー・ランチ・ミーティングにお集まり頂き、ありがとうございました。今年度からは支援の組織が発展的に「東北大学男女共同参画推進センター」になり喜ばしいことと思います。定期的にこのようなミーティングを開催し、女性研究者の方々の交流を図って頂いたり、タイミングによっては「研究費獲得スキルアップセミナー」なども開催されると思いますので、ふるってご参加下さい。

ところで、この場を借りてご紹介したいエピソードがあります。本日お集まりの方の中には、仕事上のお名前が戸籍名とは異なる方もおられると思います。2001年より、国立大学では就業時の「通称使用」が認められているのですが、ごく最近、私の友人の女性から、文科省提出書類上で戸籍名を使わなければならない場合があることを指摘されました。実際、文科省関係の学術賞などにおいても、その賞状に記載される名前、つまり新聞報道等で発表される名前が「戸籍名」であることは、本センターの副センター長でもある、医工学研究科教授の田中真美先生(本日はご欠席ですが)の科学技術に関する文科大臣表彰の際にも耳にしました。

また、通称を「ハイフン付き姓」にしたりすると、ややこしいことになります。研究者にとっては論文業績はとても大事なことですが、私自身がかつて使っていた名前の「Osumi-Yamashita, N.」さんは、現在の「Osumi, N.」さんとは別人としてPubMedという業績検索ソフトで扱われてしまいます。また、新聞報道などに名前が載るというときには「どちらかの姓にして下さい」と言われます。おかしなことですが、外国人の姓が含まれる場合は良いので、有名な女子テニス選手「クルム伊達公子」はOK。「橘フクシマ咲江」(G&S Global Advisors代表取締役社長)氏は、ご主人が確か日系二世の方なので、このようなお名前で文科省の委員会名簿にもお名前が載っています(戸籍名については存じ上げません)。

ともあれ、こういう小さなことも少しずつ改善されるようになると良いですね。そのためには、皆さん一人ひとりの小さなアクションが大切です。東北大学の男女共同参画推進センターも、これまでの女性研究者育成支援室の活動をさらに広げていけるようにしたいと思います。また、皆さんにおかれましては、このような活動の場を有効に利用して頂いて、人脈を広げ、ネットワーキングして下さい。

初めて顔を合わせる方も多かったので、順に自己紹介をして頂きましたが、皆さん個性溢れるスピーチをされておられました。その後、簡単な立食のランチを取りながら歓談した後、遅れて到着された方のスピーチになりました。東北大学で初めての理系教授であった栗原和枝先生も、我が国の女性研究者育成推進にご尽力された方のお一人ですが、このときのスピーチの中で言われた言葉が素敵でした。

……先日も、国際会議でロシアに行ったときに、懇親会で女性研究者の話題になりました。◯☓国(聞き損ねましたが、いわゆる開発途上国だったと思います)から来られた女性研究者が「私はとてもマイノリティーなのです」と言われて、「でも、マイナスかけるマイナスはプラスですよ!」とお話したら、「Oh! 今回の学会参加でもっとも嬉しい言葉を聞きました。ありがとう!」と言われました。

女性が科学の仕事を続けることは、現時点で男性よりもたいへんなことがあるかもしれませんが、これでも、前の世代の女性研究者よりはベターになってきています。何ごとも考え方ですから、前向きに行きましょう!

理系・文系という二分法が、高校生の進路選択に影響すること自体、大きな問題と思っていますが、日本でマイノリティーである理系であり、なおかつその中のマイノリティーである女性、すなわち「理系女子(リケジョ)(注)」は、ざっくり言えば超マイノリティーです。これは、多くのOECD諸国において、学部進学時点の理系女子が約40〜50%(分野による違いあり)なのに対して、日本では約半分程度の割合であることから差が生じています。

そのため、東北大学では次世代の女性科学者・工学者育成のためのロールモデルとして、「東北大学サイエンス・エンジェル(SA)制度」を9年前から始め、今年も71名が総長名で任命される予定となっています。今年もオープンキャンパスでのイベントや、地域の科学館での科学実験デモ、高校等への出前授業など、たくさん活躍してくれることと思います。

【関連リンク】
東北大学女性研究者育成支援推進センターHP:追ってセンターのHPに改組予定
北米神経科学学会会長Prof. Carol Masonのメッセージ:A Call to Action

【注】どうも昨今、「リケジョ」という用語の定義が「若くて可愛らしい理系女子」というような狭く特殊なもの変化してしまったような気がしますが、本来の用語はそうではありません。例えば、公立はこだて未来大学教授、美馬のゆり先生「理系女子的生き方のススメ」をご参照下さい。

by osumi1128 | 2014-05-25 20:29 | ロールモデル

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