過日、国立科学博物館で開催されている「
医は仁術」を観てきました。常設展は高校生まで無料ですが、さすがに特別展は大人1500円、小中高校生が600円。それでも見応え充分の企画だと思います。館内撮影自由(フラッシュや動画は禁止)というのも太っ腹。ちなみに、昨年度の来場者数は237万人に上ったとのこと。
江戸時代の各種の展示から、徳川幕府の築いた安定的時代に、日本の医学・医療のレベルがいかに高かったかが、今日の長寿に繋がっているのだと感じられました。
医学部の学生さんは必ず医の倫理の講義で「
ヒポクラテスの誓い」を学ぶはずですが、それよりも日本なら「医は仁術」を伝えた方が良いかもしれません。下記は特別展HPより。
「仁」は、儒教で重視された“他を想う心”である。
古来より“和”を大切にしてきた日本で、「仁」は身分の上下なく、誰もが持つべき思想として人々に受け入れられた。
気配り、気遣い、おもてなしのように、「仁」の心は日本文化の根幹となった。
その「仁」が育んだ日本の医。それは途切れることなく脈々として今に繋がっている。
私自身は、なぜ日本の解剖図はリアルではないのか、という文化的な違いに興味があります。例えば、有名な『ターヘル・アナトミア』という解剖図譜が翻訳されて『解体新書』になった訳ですが、銅版画で描かれた図と、木版で作成された図のタッチはずいぶん違うように思われます。

上記はオリジナル。
下記は翻訳の挿絵(裏が透けてますが……)。

ちょっとわかりにくいかもしれませんが、銅版画の方がより細かく線が引けるので、「線で影を表す」のが西洋流。輪郭線を描いてしまうのが和風。西洋流は「光と影」で表すのに対して、和風は「輪郭」が大事。
そのような道具とスキルの違いが、認知機能にどんな影響を与えたのか夢想します。西洋医学に習って腑分けを始め、絵師にスケッチを取らせてなお、それらの絵が「リアル」ではない、でもその向うにリアルなものを見ることができるのが日本特有の認知様式なのでしょうか。漫画MANGAも輪郭中心の作風ですし。

最後の「パラパラ漫画」のコーナーでは、女医のお母さんが主人公で、ちょっと涙腺が……。次の週末までなので、お時間のある方は是非、上野の科博にGO!
【参考リンク】