『あなたは理系女子?』と『嘘と絶望の生命科学』

『あなたは理系女子?』と『嘘と絶望の生命科学』_d0028322_22114042.jpg総合科学技術会議・イノベーション会議常勤議員の原山優子先生は、東北大学工学系研究科教授の頃から存じ上げていますが、お孫さんがいらっしゃるとは思えないくらいのパワフルな方で、大ファンです。その原山先生のご著書『あなたは理系女子? YUKO教授がつぶやく超「理系女子』論(イノベーションのための理科少年・少女シリーズ⑦』が言視舎から刊行され、過日ご恵贈頂きました。

原山先生は、銀座の良家の子女として幼少時代を過ごし(何でも「なぜ?」と訊く「なぜジョ」だったというお話ですが)、女子校に進むものの、お祖父様の勧めにより14歳で渡仏され、いったん帰国するものの、国内でバカロレア試験を受けて、大学はフランスで数学を専攻されます。
その後、ご結婚・ご出産を機に専業主婦をされたのち、ご主人の転勤に合わせてジュネーブへ。そこで今度は教育学と経済学を学ばれ、さらにスタンフォード大学の研究生として「イノベーション論」を学び博士号を取得。ジュネーブ大学で職を得て助教授になるも、経済産業研究所(REITI)に請われて帰国。そして、東北大学工学系研究科の教授になられて、MOT関係のお仕事の傍ら、CSTPの非常勤議員もこなされていたかと思えば、再度、渡仏されOECDの次長職に就かれ、レジオンドヌール勲章も授与されて、それはスゴい、と思っていたところ、ご帰国になってCSTP常勤議員に、という、波瀾万丈というか、ドラマティックなキャリアパスです(本書の第二部「とらわれない生き方」参照)。

そんな原山先生は男性からもファンが多いのですが、本書も「リケジョの勧め」のように見えつつ、実は「ジェンダーを超え、国境も超え、ワールドワイドに活動するための思考法と行動原理」を提示しており、男女関係なく参考になると思います。

大事なポイントは「二分法を超える」、「理系・文系」という呪縛から離れること。「はみ出す」ことを恐れないこと。「ななめからものを見る」こと。第一部の2節が実践的なアドバイスに満ちています。

中学3年生くらいから高校生、大学生、そして中学、高校の教員の方々にも是非、お勧めしたい書籍です。

拙ブログ:OECDに行ってきた


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『あなたは理系女子?』と『嘘と絶望の生命科学』_d0028322_22385770.jpg
本日ご紹介するもう一冊、『嘘と絶望の生命科学』(榎木英介著、文春新書)は、これまでに『博士漂流時代』や『医者ムラの真実』などを書かれた榎木さんの近著。帯にはこんなコピーが……。

カネと名誉と成果
ブラック企業化する研究室
STAP細胞事件の背景をえぐるレポート
これまたずいぶんと煽るなぁ……とドキドキしながら読み進めたのですが、いちおう想定内のものでした。

STAP論文をめぐって騒ぎが大きくなったときに、「生命科学分野でなぜ、このように論文不正が多いのか?」と訊かれることがありました。複数の要因があり、それらは絡みあっていて、何から挙げるのが良いかは難しい。きっと、その方の立ち位置によるのでしょう。

榎木さんがもっとも重要視しているのは「バイオ研究は労働集約型である」という点です。ここで言う「バイオ研究」とは従来の自律的・牧歌的な「生物学研究」ではなく、多数のピペド(ピペット奴隷もしくはピペット土方)が研究を支えるような構造になっている状態と捉えておられます。

その次に挙げられているのが「大学院教育の抱える問題」です。20年前の「大学院重点化」以降、大学院の入学者数が2003年頃にピークを迎え、その数年後、2006年を堺に日本から出される論文数が、世界的な傾向とは逆行するように減少していったことは、まったく関係が無いとは思えません。ここで問題だったのは、大学院生の数を増やしたときに、教員の数も比例して増やさなかった(むしろ、その後、運営費交付金の削減により、技官や若手教員ポストが減っていった)ことがあります。

さらに「生命科学の産業化」に言及されています。これは、科学技術基本計画に「ライフサイエンス」が重点分野として盛り込まれたあたりからが本格化したものと思われます。

その他、「論文雑誌の罪」などもありますが、このような背景をもとに、バイオ研究では研究不正が生まれやすいのではないかと議論されています。

私自身は、時代的に榎木さんよりも淘汰圧が低い環境で育ち(ジェンダー問題はここでは置いておくとして)、現在まわりを見渡しても、ここで例示されるほど「奴隷」のように働いている方を目にしないので、今ひとつ「ピペド」という言葉には実感が無いのですが、生命科学の領域によっては「職人的」な面や、時間をかければかけるほど成果が上がる実験があることは理解できます(個人的には「職人的」な面はむしろ好きです)。また、生命科学分野で輩出される大学院生の数に見合って、バイオ系の産業が日本で育ってこなかったことも事実です。国立大学の独立行政法人化にせよ、競争的資金の増加にせよ、種々の施策の悪い面の影響がとくにこの10年くらいの間に蓄積してきたこともあります。

もしかすると、これらのさらなる背景としては、戦後の経済成長時代と同じ発想から逃れられない硬直化した組織、という構図があるのかもしれません。この閉塞感から脱却するには、集団の中のマイノリティーの「ななめから見る」発想が大事なのかもしれないと考えています……。

やれやれ、この分野はどうも、書評というより、自分の意見になりがちですね……(反省)。


by osumi1128 | 2014-07-29 23:24 | 書評

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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