一昨日、初めて女性にフィールズ賞(フィールズ・メダル)が授与されたという快挙が報道されました。(下記画像はオリジナルがどこなのか不明。とりあえず、
Capital Campusというケニヤのサイトに載っていた、もっとも画質の良いものを選びました)
フィールズ賞はよく「数学のノーベル賞」と言われることが多いのですが、ノーベル賞と異なり、受賞者が選ばるのは4年に1度(今回は4名の受賞者)で、しかも40歳未満という制限もついているので、より厳しい賞であるとも言えますね。国際数学連合という組織が選考を行っており、今年の授賞式はソウルで開かれました。
受賞者の一人は、イラン出身のマリアム・ミルザハニ氏というスタンフォード大学教授。トポロジーや幾何学に関する分野とのことです。まずはこちらのサイトの冒頭にある本人インタビュー動画を御覧ください。
Maryam Mirzakhani’s monumental work draws deep connections between topology, geometry and dynamical systems.
94年、95年に数学オリンピックで金メダル連続受賞。こちらの記事によれば、博士論文の内容が「タイタニック級」とのことです。模造紙に横線が引かれたロール状の紙に、ひたすら手書きで絵や数式を書きながら思考する姿がとても印象的でした(下記画像は上記のサイトから引用しました)。最後の方に出てくるお嬢さんと思しき小さな女の子と一緒の様子も微笑ましい。
母国イランでご両親と一緒の画像を見ながら、もしかするとイスラム文化に特徴的なアラベスク模様の中で育ったことも、彼女の幾何の才能を育むのに影響を与えたのだろうか……と考えました。もちろん、同じ環境で育った女性はこれまでにも多数いるわけですから、ミルザハニ教授がフィールズ賞を受賞したのは、彼女の才能も大きいと思います。でも、おそらく、本人の努力に加え、家庭の理解や経済力が無ければ、数学オリンピックに出ることも、テヘラン大学を卒業後にハーバード大学で学位を取得することもできなかったのではと思います。さらに祖国では「ヒジャブ」を被って生活しなければならないのに対して、米国ではその必要が無いということも、無意識の抑圧を解き放つという意味で、彼女のメンタリティーに影響を与えたのではないでしょうか。
実は昨年上梓した拙翻訳本『なぜ理系に進む女性は少ないのか?』(原題:Why aren't more women in science?)の帯には、「"フィールズ賞"の受賞者に女性はまだいない。男女で生まれつきの能力に差があるのか?」と書かれています。これ、書き換えないといけませんね。
科学の中の女性参画の歴史が塗り替えられた日でした。
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ちなみに、さっそく友人のK先生に「良かったね!」とメールをすると、ちょうど、ソウルで授賞式に参列されているとのことでした。国際数学連合の下におかれたWimen in Mathsという組織が女性数学者のための会を前日に開き、そのプレナリー講演をされたとのことでした。さすがK先生です♬
日本の女性数学者は5%で、他国が20〜50%であるのに比べて著しく低いのは、日本の女性が他国の女性よりも数学の才能が無いというよりも、やはり文化的なプレッシャーが大きいのではないかと思います。「女子が理系に進んでも、将来明るくないよ」という囁きが、親から、友人から、教師から聞こえてくるにつれて、数学が好きなのに諦めてしまう女性が多数いるのでしょう。K先生曰く、「数学は紙と鉛筆さえあればどこででもできるのだから、むしろ職場に縛られないので女性向き」。このことを今回のフィールズ賞受賞をきっかけにもっと知って頂けたら良いのではと思います。
なお、次期の国際数学連合の会長が森重文先生とのこと。こちらは初めての日本人。国際社会の中での日本のプレゼンスを高めるためにも、日本から世界に貢献して頂けると良いですね。
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【追記】
日本人でも数学オリンピックの女性金メダリストがいました! 中島さち子さん、96年金メダル、97年銀メダルで、その後、東大数学科に進学されたようですが、ジャズピアニストの道に進まれたようです。
以前、K先生が、「数学オリンピックで入賞していても、医学部に進学しちゃうのよね……」と嘆いておられたことを思い出します。医学部で必要な詰め込み教育と脊髄反射のように解答するトレーニングは、一つのことを深く長く考えなければならない数学とは相容れないでしょう。良い人材活用ができていなに日本の社会構造は問題かもしれませんね。