第41回神経内分泌学会にて講演:改めて「神経堤細胞の魅力☆」

高知大学医学部の岩崎泰正先生が大会長を務められた第41回神経内分泌学会にて、ランチョンの時間帯、井村裕夫先生の特別講演の前に講演を行いました。頂いたお題が『神経内分泌細胞のルーツ:神経堤細胞の魅力』だったのですが、私自身も自分の研究ルーツを振り返る良いきっかけになりました。
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神経堤細胞は、ヒトの発生であれば受精後第3週に現れます。神経管形成というダイナミックなイベントに伴い、神経上皮と外表上皮との境界部に形成される「神経堤」という領域から這い出した神経堤細胞は、わらわらと体内を移動しつつ増殖し、移動先で多様な細胞に分化します。

(右の画像は、神経堤に由来する細胞が緑色蛍光タンパク(GFP)で標識された発生途中(受精後13日目)のマウス胎仔です。)



神経堤細胞から派生する細胞・組織
●末梢神経系(脊髄神経・自律神経)のニューロン
●末梢神経系(脊髄神経・自律神経)のグリア(シュワン細胞)
●ホルモンを産生する神経内分泌細胞の一部
●皮膚のメラノサイト
●顔面と顎の骨・軟骨・象牙質を作る細胞
●脳を包む膜(硬膜・くも膜・軟膜)
●眼の虹彩・角膜の一部(内皮と実質)
●鼻の嗅上皮の一部(幹細胞含む)
●内耳の感覚細胞
脊椎動物の進化とともに八面六臂の活躍をするようになった細胞です。詳しくは「脳科学辞典:神経堤細胞」を御覧ください。さらに興味のある方は拙共著『神経堤細胞:脊椎動物のボディプランを支えるもの』(倉谷滋・大隅典子著、東大出版会)をご笑覧下さい(ただし絶版)。
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講演では、神経堤細胞に関係すると思われる神経芽腫のような腫瘍を取り上げ、もしかするとより普遍的に、腫瘍発生の「タネ」としての捉え方ができるのではないか、というような展望についても言及しました。

200名ほどの会場に立ち見が出たのも嬉しかったですが、講演後に懇談室で仕事をしていたら、何人もの若い方々が「もう少し伺って良いですか?」「別の講演と重なっていたので聞けなかったので教えて下さい」などと声をかけて下さいました。学会(meeting)は「興味のある研究者が直接会って、アイディアを交換する」ことこそが、その機能なのですから、このようなインタラクションはもっとも有意義なことです。

今回の学会は参加者300名ほどで、いわゆる「学会屋」さんが関与せず、また昨今のCOIの問題もあって製薬企業さんの関与も少なくなって、大会長の岩崎先生が心を砕かれて手作りされたことが伝わってきました。懇談室には高知のお菓子(ミレービスケット細切り芋けんぴなど)が置いてあったり(美味しかったです! あ、細切り芋けんぴパッケージに描かれているのは、高知ゆかりのやなせたかしさんのイラスト♬)。またご招待頂いた理事会の食事会は、土佐料理のお店「祢保希」で行われました。

上記の拙共著『神経堤細胞:脊椎動物のボディプランを支えるもの』(倉谷滋・大隅典子著、東大出版会)、そういえば1997年発刊なので、もう一度、私個人の視点で書きなおしてみたいと思いました。


by osumi1128 | 2014-11-02 09:31 | サイエンス

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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