過日、自治医科大学において研究不正に関する講演をしてきました。東北本線の宇都宮と大宮の間にある「自治医大駅」から車で数分のところに、大学、病院、学生寮等の建物が建ち並ぶ広大なキャンパスがあります。私立大学ですが、実際には総務省(旧自治省)が1972年に設置した大学であり、独特の雰囲気でした。
講演は夕方からだったのですが、元学生だった高橋将文さんがこちらの
分子病態治療研究センター細胞生物研究部の講師として川上教授にお世話になっているので、学内をいろいろ案内してもらいました。なんというか、すべてにゆとりがある、というのでしょうか……。設備もゴージャスで羨ましいww タイミング的に30代後半から40代の教員の方が集まっているようで、
先端医療技術開発センターの脳機能研究部門に最近着任された准教授の平井真洋さんのお話など面白く伺いました。
今回の講演では、より実践的な内容にすべく、「<うっかり>が生まれる瞬間」というスライドを数枚入れました。例えば、ラボ内の研究進捗報告会などで、「こういうデータが出る予定」として、何か適当な電気泳動のバンドの画像などを貼ったPPTを作成すると、それが論文の図にそのまま残ってしまったりする、ということも、「ハインリッヒの法則」で言うところの「ヒヤリ・ハット」レベルの問題に相当するので、そういう「芽」を摘むようにすべきであるなど話しました。
私の次に講演をされたのは、循環器系の治験に関係した論文の不正疑義にいち早く気づかれた興梠貴英准教授。統計データからどのように不自然さを見出したのかを説明されました。
それでふと気づいたのですが、臨床系の論文不正に関しては、2000年代の中程から目立って起きているようです。これはタイミング的には、日本では基礎生命科学は世界に伍した研究が出ているが、臨床研究ではそうではない、と言われてきて、いや、そんなことはない、2003年より医師主導型治験も開始したから、良い臨床研究論文がこれから出るのだ、という旗が振られていた時期以降のように思われます。
生命科学系の論文は、2001年頃をピークに、そのシェアを下げているのに対して、臨床医学論文はそうではない、というデータ(元三重大学学長の豊田長康先生の下記ブログから引用させて頂きました)と合わせて考えると、臨床研究論文を出すためのプレッシャーが大きくなった中で生じた歪であるようにも見えます。
ちなみに、豊田先生のデータ(元データとしてNISTEPのものなど含む)は、これから種々吟味して使わせて頂くことが多いと思いますが、例えば、科研費の種目の中で、もっともコスパが良いのは「基盤C」という資料もありました。
これは、ポスドクなどを雇用できるレベルでは無い金額の研究費ですが、例えば基盤Aなどでは人件費を含むので耗品費が不十分なのかもしれませんし、より「大きな論文」を狙わざるを得ない背景から、数で統計を出すとこのようになるのかもしれません(ただし、シェア上位10%で集計しても同様の傾向)。種々精査すべきと思いますが、いずれにせよ、運営費交付金を召し上げて競争的に配分するというやり方が必ずしも意図した結果にはなっていない可能性があるのではと思われます。
強調しておきたいのは、研究不正の問題は、単に「研究不正を取り締まる」だけでは対応できないのではないかということです。この背景には初等中等教育レベルの問題(そもそもの倫理観、ディジタル情報を用いる際のクレジットの扱い)や、研究者のキャリアパスの問題(博士号取得者の活躍の場がまだまだ足りない)もあり、さらにはこのような研究費配分の問題も過度な競争的環境を作り出し、不正が生じる遠因になっているかもしれません。多面的な対応が必要と考えられます。
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自治医大の講演の後、病院のレストランで懇親会を開いて頂きました。蓑田先生、川上先生、お世話になりありがとうございました。