古い本棚(short versionに変更)
2015年 04月 04日
ラボの引越しの際に、スチール・キャビネットの天板と扉の木製部分を手入れしようと蜜蝋ワックスを購入したのは、もしかすると、この本棚に出会うためだったのか。
オフィスの引越し後、メインの本棚に収納していた和書・洋書の教科書や参考書が詰まったダンボール箱との共同生活を2ヶ月ほど続ける間、はて、どんな本棚を設置しようかと思案した。本好きな人間にとって、本に囲まれた空間というのは至福をもたらすものであり、天井まで作り付けの本棚をお持ちの学者も多い。残念ながら、今回移ったフロアは、もともとがコラボ・スペース用だったので、壁といってもスチール・パネルの仕切りで、そこに作り付けの本棚を設置するのは不可能であった。オフィス家具のカタログも見たが、結局のところ何かがしっくりこなくて、注文する気持ちにはなれなかった。
ほとんど諦めかけていたときに、デンマーク生まれの本棚、大小(高低?)2基が、同じ店で売っているのをインターネットで見つけた。しかも、その店はなんと仙台市の郊外にあった。気持ち的には即決だったが、ある週末に出かけていって、倉庫の中に置いてある現物を確認させてもらって確認した。おそらく、オフィスのダンボールの書籍すべては入らないだろう。それでも、木の持つ温もりや、無垢の一枚板の安心感や、美しく削りだされた木口のデザインなどは、毎日、目にするたびに気持ちを優しくしてくれそうだ。
この週末にようやく納品された際、店主からは「水気には気をつけて下さい」と言われ、「こんなワックスで手入れすれば良いですか?」と蜜蝋ワックスを見せたところ、「あ、これで良いです。塗りこんだ後に、布でさらに磨きをかけて下さい」と指示を受けた。
ワックスを塗ってみると、恐ろしいほどに染みこむ染みこむ……。いったい何年ぶりに本格的に手入れされたのか、本棚の板という板は、息をするように油分を吸収していった。まるで眠り姫が目を覚ましたように、古い本棚が生き返った。すぐに本を仕舞うのは諦めて、数日、様子を見た方がよさそうだ。
この古い本棚が私を待っていてくれたのかもしれない。良い出会いとは稀なものである。
