プレス発表と新聞記事のギャップ

10月18日にプレス発表した研究成果がいくつかの新聞で取り上げられた(すみませんが、トップページから「研究成果」に入って下さい)。
ここで気が付いたのは、プレス発表の文章がさらに新聞記事になる際に変換されるということだ。

日刊工業新聞(10/20):日刊紙なので、論文のオンライン公開の日に掲載。550字程度。「転写因子」がそのまま使われているが、大丈夫なのか心配。「約9000種のオリゴDNAが搭載されているマイクロアレイ」というくだりが残っているのは、なんとなく「工業っぽい」感じがするからだろうか。Pax6がFabp7を制御していることは書かれているが、せっかくの「不飽和脂肪酸」との関係についての考察は削られた。まあ、現時点では考察なのだから致し方ない。変異ラットが「異変ラット」になっているところが1カ所(これはあら探しですね−苦笑)。
化学工業新聞(10/24):一番もとの原稿に近い書き方で詳しい。650字程度。メッセンジャーRNAなどの専門用語も使われている。「化学」物質であるからか、不飽和脂肪酸についても書かれている。ただし「大隅」が「大隈」になっている。そのままテキストをコピペすれば間違うはずはないのだが、ちゃんと書き直したせいかもしれない。
科学新聞(11/4):本文は500字程度。図の1つ(マイクロアレイのデータ)も引用している。その分、字数を減らすためか、化学工業新聞よりも大雑把なとらえ方になっているが、大筋においてこちらの意図をくみ取ってもらっている。
日経産業新聞(11/9):460字程度。書き出しのあたり「・・・この物質が働かなくなると、神経幹細胞が神経細胞に成長し始める。・・・この物質がバランス良く働くことによって、脳や神経が発達していくとみている。痛んだ脳組織を修復する再生医療にも応用できそうだ。」どうも、「分化」という言葉は一般には馴染めないらしく「成長」に変わっている。ちなみに、私自身は「再生医療への応用」などは一言もプレス発表には書いていない。「神経幹細胞」はキーワードとして入れたが、それは、さらに専門用語である「神経上皮細胞」という言葉を避けるために行ったことである。記事が一人歩きしていく姿を見た気がする。細胞の増殖や分化を理解しないで「幹細胞」だけが使われるのはいかがなものか。

今回は「投げ込み」しか行わなかったということもあり、メジャーな新聞では扱われていないが、このように半月経っても記事になるのが面白いと思った。
また、同じ情報ソース(しかも、テキストになっているもの)を元に、それぞれ取り上げられ方が異なるのが興味深い。
少ない字数に減らす際にどこが削り落とされるかが、当然ながらそれぞれのライターによって違うのだ。
ただし、日経産業のものでは「幹細胞」→「再生医療」とオートマティックに演繹されているのは、私の意図とかなり異なるのだが、記者発表をしていないから、私の重きがどこに置かれているかがまだ伝わっていないのだろう。

中学の国語の先生は教え方をいろいろ工夫されている方だったが、今でも覚えているのは「要約の作り方」。
曰く「2つのやり方があります。その一、不必要と思われる箇所を削る、あるいは、その二、大事だと思われる箇所を抜き出します。そうして単語と単語、句と句、文と文を滑らかにつなげるのです」
授業では実際に、同じ文章から2つのやり方で要約を書いてみるという作業を行って、面白いなあと思った。
もう15年ほど前に退職されておられるが、どうしていらっしゃるだろう?

*****
さて、今日はなぜか朝4時に目が覚めてしまって、パッキングを済ませ、こちらにいる間にファックスで送られてきた原稿の校正などをしていました。
本腰を入れて書く必要のある原稿は、まだ後回し状態・・・
昼前の便でワシントンDCに移動なので、早めに空港に行くつもりです。
by osumi1128 | 2005-11-11 20:56

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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