今年の4月25日付で上梓された『iPS細胞 不可能を可能にした細胞』を、著者である黒木登志夫先生からご恵贈頂きました。黒木先生にとっては中公新書シリーズ科学バージョン第三弾です。他にも『知的文章とプレゼンテーションー日本語の場合、英語の場合』などもありますが。
さて、iPS細胞に関する書籍は多数出ていますが、黒木先生の新書はきわめてわかりやすい。それは、「知的文章」に対する持って生まれたセンスと努力や、いくつかの挿絵まで描かれる才能に加え、先生ご自身が長く癌の研究者として活躍されただけでなく、学長や日本学術振興会顧問など、大所高所から広く科学分野を見渡すご経験を積まれていることも少なからぬ影響があると拝察します。
本書では、後半のiPS細胞を用いた応用について(第七章 シャーレの中に組織を作る、第八章 シャーレの中に病気を作る、第九章 幹細胞で病気を治す)の部分も2014年頃までの最先端の研究について触れてあり、もっともアップデートされていますが、私自身はむしろ前半部分、第一章の「からだのルーツ、幹細胞」や第二章「iPS細胞に至るルート」の部分が、再度、生物とは、人間とは、ということを考える上で読み応えがありました。もちろん、明日から始まる今年の医学部二年生相手の「発生学」の講義でも、参考書籍として紹介するつもりです。幹細胞研究に関係した研究不正についても触れられています。
山中伸弥さんご自身が序文を書かれ、オビには顔写真まで載っているのは、山中さんも黒木先生の『がん遺伝子の発見』(中公新書)を読んで得た感動を大事に思っていたからでしょう。以下、引用します。
1996年、私は三年間のアメリカ留学を終え、日本での研究を再開しました。しかし、さまざまな困難の連続で、研究に対する情熱を失いそうになっていました。そんな時、一冊の本が、科学に対する情熱を甦らせてくれました。本屋で偶然に見つけたその本を、私は何度も何度も読み返しました。務めていた大学に、その本の著者の先生が講義で来られた時、勇気を出してサインをして頂きました。私にとって障害忘れることのできないその本とは中公新書の『がん遺伝子の発見』、著者は本書を書かれた黒木登志夫先生です。(山中さんの序文より)
どんな分野であれ、生涯の間にそういう本や、そういう論文が書けたら素敵なことだと思います。頂いたサインを見返して精進します。
【iPS細胞に関連して】
週刊ダイヤモンド5/30号が出ました! ちょうど上記と関連した話題がコラムの4回めとして掲載されています。