ダライ・ラマの講演

今日午後からが本当の学会。
とにかくあまりにも演題数が多く、全部は見切れないのは確か。
うちのラボから他に3人参加しているので、彼らが行きそうではないところをなるべく押さえるつもり。

午後に聴いたシンポジウムはLateralization of the vertebrate brainというもので、zebrafishの松果体の発生、ヒヨコが左右の眼を使い分けている話、鳩の左右の眼の使い分け、チンパンジー他の脳の左右差と利き手という4つの演題があった。
一番面白かったのはヒヨコの右眼(生まれる前から光刺激を受けている)は細かいものを見分けるのに使われ(例えば、地面の餌を小石と区別するなど)、左の眼は外敵をwatchするために使われるらしい。
つまり、lateralizationすることによって、同時に2つのタスクをこなすことが可能になるという訳だ。
鳩の方は、右眼の方が全体的な形などを把握していて、左眼は「要素」を見分けているという主張をしていて、根拠とする実験は、鳩に何百枚もの「人」が含まれる画像を見せて訓練しておき、次に、その画像をコンピュータで分割し、ランダム化した画像を何段階か作り、どこまで「人」的要素を認識しているかを調べたというのだが、レベル6は人間が見たらどうしてもただ画素が並んでいるようにしか見えないような代物なので、鳩は本当に「人」的要素を認識しているのか私にはちょっと理解できなかった。
まあ、鳩がピカソと印象派を見分けるという話は聞いたことがあるが……

さて、その後、Dialogs between Neuroscience and Societyという特別講演で、なんとチベットの高僧Dalai Lamaが話をされた。
メイン会場のホールは厳しいセキュリティーチェックとのこと。
当然のことながら入りきらない人の為に、他の会場でライブ画像を見ることができた。
(気持ち的には、「生ラマ」を見た、つもり)

ちょっと見には、「オモロイおっさん」だし、講演の中身も格段に深遠なものではなかったのだが、「オモロイおっさん」と受け取られるところがpopularityでありカリスマ性なのかもしれない。
「英語のボキャブラリーが少ないので」ときどき、専任(と思われる)通訳の人に単語を直してもらったり、中国語(もちくはチベット語)で言ったのを通訳してもらっていた。
通訳の人との呼吸が非常に合っているところを見ると、このパターンで世界各国で講演して回っておられるのだろう。

タイトルはThe neuroscience of meditationとなっていたが、話の中心はそんなにmeditationにはなかった。
むしろ、仏教的な世界観がどのように神経科学と結びつくか、といったあたりが中心。
いや、もっと個人レベルの話で、疑うことや好奇心が大切であることや、科学的な知見が増えるにつれ、より倫理的問題が大切になることを主張しておられた。
何より興味深かったのは、「もし、例えば神経科学の新しい発見によって、これまでの仏教の教義とは異なることが真実であると分かったならば、教義を変えればよい」と明言されたこと。
これは、ユダヤ教、キリスト教、イスラム教など、いわゆる一神教の宗教観ともっとも異なる点だろう。

トークは(たった)30分(しかも、通訳している時間などもあり)。
その後フロアからいくつか質問を受けた(予め、聴衆から選ばれている)。
「動物実験についてどのようにお考えですか?」
「仏教徒でもnon-vegetalianはいます。それはそれとして、動物実験を行う際には、使用する動物の数を極力減らすこと、そして与える苦痛を最小限にすることが大切です」
「もし、外科的に、あるいは何かの薬によって瞑想と同じ境地に達することができるなら、瞑想をする必要はなくなるのでしょうか?」
「その通りです。ただ、現状の薬物などは、一種似た精神状態をもたらすことはできますが、同じではありません」
「Inteligent design(※「進化」ではなく「神のデザインに基づいて生き物の多様性等が生まれたとする考え方)についてどう思われますか?」
「それについては知りません」(きっと、同じ質問は何度も受けているに違いない)

30分の講演をして頂くために、遠くチベットからワシントンDCまで(もしかするとお付きの人を含めて)お招きするのに学会がいくら払ったのかは知らないが、かなりの費用対効果があったには違いない。

明日は、朝8時からセッションが始まる。
絶対に寝坊しないようにしないと……
by osumi1128 | 2005-11-13 09:10

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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