Lichtman(発音はリクトマンのように聞こえます)先生は、セントルイスのワシントン大学でMD/PhDを取得され、神経筋結合部のシナプス形成についての研究を展開。2004年に、Joshua Sanes先生とともにハーバード大学に移られた頃から、いわゆる「コネクトミクスconnectomics」を立上げ始められました。
簡単に言うと、nmの分解能がある電子顕微鏡を用いて徹底的に細胞同士の繋がり(connection)、つまりシナプス形成を観察しよう、というアプローチなのですが、そのための連続超薄切片作製装置や撮影装置の開発、撮像された二次元画像からそれぞれの細胞の繋がりを手作業かつ人海戦術で色分けしていく、など、前人未到の世界を展開されています。
興味のある方はぜひ、こちらのTEDの動画を御覧ください。
さて、アテンダントの役得として、仙台から神戸までの飛行機ではずっとお話をさせて頂きました。その中で「多くの神経科学者は、脳がどのようにして構築されるのか、発生発達現象にあまり興味を持たないが、実は哺乳類の神経機能発露にとって大事なのは、遺伝的に決められているプログラムよりも、活動は経験によって決まっていく神経結合である」という自説を展開されていました。これは、発生生物学出身の私にとっては、まさに膝を打つお話でした。
「昆虫などは、それぞれの生態系に合わせた神経プログラムがインストールされていて、個体ごとのバリエーションは限りなく少ない。でも、哺乳類は、決まっている部分よりも、後から経験によって変わりうる部分の方が圧倒的に大きい。ヒトはその最たるもの」とも言われていました。ちょうどまさに「個性の脳科学」についてどんな風に展開したら良いかと考えているところでしたので、非常に参考になるお話でした。
これまで、生命科学や医学は集団ごとの平均値にばかり注目しており、そのばらつきは「無い方が良いもの」と捉えてきたと思います。そのこと自体はもちろん大切なのですが、「はずれ値」に注目するような科学は成り立たないのかと思うのです。そうでなければ「天才の脳はどのように使われているのか、それはどのようにして出来上がってきたのか」などを理解することは不可能でしょう。あるいは「一回性」の科学は、科学になるためにはどうしたら良いのかと考えています。