昨年も12月最後の金曜日には大きな記者会見があったようだが、今年は研究費の不正使用に関して、
億を越える金額のものが、会見前からニュースに流れた。前代の教授の頃からの「預け金」が見つかったということらしい。大学が法人化以降、会計管理はどんどん明瞭化されている中で、今頃こんな事例があったのかと驚きを禁じ得ない。
さて、研究コミュニティーとしては「こんな事件があると、また種々の管理が厳しくなって余計な雑務が増えるのではないか」と戦々恐々している方が多いのではないかと思う。研究費使用の不正は分野を超えたインパクトが大きい。
そのような中、「こういう問題は<単年度会計>のためだ」という意見がネット上では多く見受けられた。例えば、理研の中川氏がまとめたtogetterを参照のこと。
200名弱がネットで投票を行って、そのうち77%の回答が「単年度予算のルールを撤廃する」というものであった。
また、神戸大の榎木氏もYahooニュースに以下のような文章を載せている。
確かに、私自身、ヒューマンフロンティアサイエンスプログラム(HFSP)の研究費を頂いたときに、予算が普通に繰り越せることにびっくりし、本当に有難いと思った。とくに初年度の研究活動はいろいろなことが予定どおりには進まないことも多いので、執行できなかった経費を自年度繰越しすれば良いだけなのは、無駄な物品購入を防ぐ効果もあるだろう。実際、文科省の科学研究費でも所定の手続きにより次年度繰越や、前倒しでの執行も可能になりつつある。
しかしながら、例えば今回のような研究費使用のルール違反は、仮に単年度会計を撤廃しても生じるのではないかと私自身は考える。最大の問題は、倫理観の欠如であろう。研究倫理の徹底は当然として、単年度会計云々より、もっと根本的に不正が起きにくく、なおかつ、研究者も大学の事務系職員も余分な仕事が増えないような仕組みを考えるべきなのではないだろうか?
ここでは、米国で見聞きしたり、間接的に聞いた執行方法について考察してみたい。
例えば博士研究員が研究に必要な物品の購入を考えたとする。彼・彼女はネットでカタログを見て、その情報をラボの「発注システム」上でオンラインで入力する。ボス(PI)が買っても良いと判断すると、「Approved」をクリックする。秘書もしくはラボマネージャーが、承認された物品の発注を行う。品物が宅急便で届くと、元々の物品を必要とした博士研究員が先の発注システム上で「Received」をクリックする。Invoiceがラボ宛に届くと、秘書もしくはラボマネージャーが研究費執行用の所定のクレジットカードで決済する。クレジットカードで執行できる予算は決まっており、カード会社からは毎月、執行額や残高が届く。
これに対して、日本の大学では、以下のようになるだろう。
博士研究員がカタログを見て(場合によってはPIの判断を仰ぎ)代理店に発注する。代理店の営業担当者が運ぶ品物は、まず部局事務の「検収センター」で「見積もり」伝票と同じ品目の物品が届いたかどうかのチェックを受け、その後、研究室に納品される。「見積もり・請求・納品」のいわゆる「三つ組伝票」を元に、研究費の代表者(もしくは秘書)がエクセルファイル上で所定の書類を作成する(←紙媒体!)。三つ組伝票のうち、納品書はラボに保管され、請求書とともに研究室からの伝票が部局の用度係に届けられる。用度係はその伝票を元に、大学の会計電算システムに入力する(二重の入力の手間)。用度係から代理店に入金が為される。
私が助手(現在の助教に相当する職位)だった頃は、カーボン紙(←若い方は知らない?)を間に挟んで、手書きで伝票作成をしていたのだから、エクセル入力になっただけでも革新と言えなくは無いが、日本の大学ではいかに無駄が多いシステムを未だに行っているのかわかるだろう。まぁ、江戸時代から行われている「内需拡大」の名残なのかもしれない。あるいは、大学のあるような地方都市では、雇用の確保にもなっているだろう。
米国のシステムでは、クレジットカード会社が残高計算をしてくれる(日本だって、大きな企業だったら、ある程度以上の職位の方なら仕事用のクレジットカードを持たされて、それで決済できる)ので、その分の人件費は大幅にカットできる。ラボの秘書さんやラボマネージャーは、かなり大きなラボは別として、一人の秘書さん(ラボマネ)が2つ3つの研究室の発注の面倒を見る。もし、不正な納品が行われた場合に、研究室に所属する秘書の場合には、それを告発すると自分の職が失われるかもしれないが、複数のラボに関与していれば、そういうリスクも経るだろう。
カード会社が入っている場合に、不正なお金の流れ方もチェックされやすいだろう。繰り返し、巨額の発注が特定の企業に対して為されているときに、大学本部に連絡するようなルールを作っておけばよい。
この際、根本的に日本の大学の研究費会計システムをIT化してはどうだろうか? 外れ値の不正のために、すべての研究者に対して現行のシステムの人力でのチェックを厳しくするだけでは、ますます、我が国の研究力は低下してしまうと思った方が良い。