ベネルクス訪問(その1):ブリュッセル

そういえば「ベネルクス」という言葉があった、ということを思い出した今回の出張。ブリュッセルに3泊、マーストリヒトに2泊の旅でした。ただいま、ブリュッセル空港。直行のANA成田便は遅延とのこと。やれやれ……。

ブリュッセルの用務先はEuropean Research Council (ERC)。EUからの資金を研究費として配分するfunding agencyです。広い学術分野を扱っているので、日本で言えば日本学術振興会(JSPS)に相当します。実際、JSPSとも連携しているとのこと。

とある研究費の審査に関わる用務だったのですが(守秘義務があるので具体的なことは割愛)、日本よりも圧倒的にオンライン化が進んでいます。これは、宅急便で大量の書類を送らないなど、経費節約の意味も大きいようです。審査会の間もずっとオンラインで資料を見たりコメント入れたりします。ちなみに、この週は、生命科学系の分野ごとの審査部会が同時並行で少なくとも5つ以上開催されていました。審査に係るのは現役研究者のみで、米国NIHやNSFのグラント審査と異なり、日本と似ているシステム。EU以外の国からの審査員(External)は決して多くは無いようです(利害関係という意味では、externalの審査員が多い方がベターですが、旅費など、経費の問題もあるのでしょう)

さらに、最終評価はA, B, Cになるのですが、Bは1回、Cは2回、次回の公募に応募できないという制限が課されます。まぁ、よく考えて研究計画練りなおして、予備データも取って下さい、という意味なのですが、応募数の制限という意味もあります。審査する課題数が多いと審査員も大変、審査員を選ぶERCも大変。なので、結果的にこれも経費節約になる合理的なシステムではあるのですが、実際のところはCをつけたら、その研究者は2年間、当該研究費には応募できない訳ですから、審査員としては責任重大。

初日のランチ後にERCのPresidentであるJean-Pierre Bourguignonからのブリーフィングがあり、ERCの現状や、各審査員の科学コミュニティーに対する貢献について話されました。その後の質疑応答では、「女性の採択が少ないのでは?」という質問が真っ先に出て、「一応、応募数における女性の割合に限りなく近づくように考慮している」という説明があった後で、「ただし、BやC評定だった後に再応募する女性の割合が男性よりも少ない傾向」との説明がありました。女性は男性よりも自己評価が低い(もしくは客観性に優れる? 過大評価しない)ことや、無駄な努力はしたがらない傾向が強いのは、世界共通なのだなぁと思いました。

さらに、地域性の問題なども取り上げられ、ギリシア、チェコスロバキア、リトアニア……などの国名が挙がるのは、EUの組織ならではという感覚を覚えました。例えば、イタリアからは頭脳流出の問題が出てきているようです。

いわゆる書面審査からヒアリング(インタビュー)に呼ぶ候補者選定作業の間、何度も「このPIは同じ研究室に長くいて他の研究室を経験していない」というコメントを聞きました。これは「ネガティブ」な評価という意味です。学際性の高い研究をする上では、複数の研究組織を経験していることが必須というコンセンサスが出来上がっています。

ERCが入っている建物のエレベーターホールで見かけた標語が素敵だったのでメモっておきます。

The European Research Council Executive Agency is dedicated to selecting and funding excellent ideas that have not happened yet and the scientists that are dreaming them up.
ERCEA MMXII D.C.
ベネルクス訪問(その1):ブリュッセル_d0028322_01002070.jpg
【補足】
例によって事前の調査不足で現地入りし、気温も低い日が多く、3月初旬でまだ日が短いなどが加わり、ほとんど何も見ないで3日間を終えました。再訪問の際には、初日の移動日にルネ・マグリットの美術館でも見に行けたらと思います。

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ERCが入っているビル、ブリュッセル北駅近くのCovent Garden。入り口では初日、セキュリティーに招待状とパスポートを見せなければなりませんでした。
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会議室の窓からの眺め。煉瓦色の屋根の建物がヨーロッパらしい。
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とにかく天気が変わりやすい。この画像は最終日の会議後、速攻で1時間ほどの街歩き。


by osumi1128 | 2016-03-06 01:00 | 旅の思い出

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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