過日、お世話に鳴っている黒木登志夫先生の「傘寿+出版記念お祝い会」が開かれ、仙台から馳せ参じた。そのようなお年にはまったく見えないので、暦年齢として115歳くらいを目標に長生きされてほしいと願っている。ちなみに、お祝い会の最後にスピーチをされた現日本数学会会長の小谷元子先生(東北大学大学院理学研究科教授、総合科学技術イノベーション会議議員)は、目標125歳とのこと。
今回、黒木先生が上梓されたのは
『研究不正 科学者の捏造、改竄、盗用』というもの。中公新書としては『がん遺伝子の発見ーがん解明の同時代史』(1996年)、『知的文章とプレゼンテーション 日本語の場合、英語の場合』(2014年)、『iPS細胞 不可能を可能にした細胞』(2015年)に続く4作目。ちなみに、『がん遺伝子の発見』は山中伸弥先生の「心の糧」にもなった名著。今回のお祝い会では、山中先生からはビデオメッセージが届いていた。
本書で何より圧巻なのは、国内外の種々の分野にわたる42もの事例について、黒木先生ならではの解説が為されていること。論文撤回本数ワースト1位の日本人研究者から、ノーベル賞に絡んだHIVウイルスの発見者、お札にまでなっている野口英世も取り上げられている。拙著
『脳からみた自閉症』にも取り上げた「ワクチンによって自閉症が生じる」という論文がまったくの捏造であったこと(ウェイクフィールド事件)などは、もっと多くの方々に知って頂きたいと思う。多数のケースを読むことにより、不正の背景や起こりやすい条件が帰納的に浮かび上がる。
先月、日本内分泌学会という学会で研究不正に関するシンポジウムに登壇した折、「捏造が生まれる瞬間」というタイトルのスライドを入れて、ボスからの過度のプレッシャーは、そういう条件になりうるという説明をしたが、「たとえそうであったとしても、不正をするかしないかは本人次第」「親の教育なども重要ではないか」などのご意見を質疑応答時に頂いた。もちろん、親御さんの育て方から、初等中等教育の問題もあるが、だからといって高等教育機関の教員が何もしなくて良いという訳ではないと思う。まずは現状把握に関して、黒木先生のご著書を参考にして頂きたい。
ともすると暗鬱な気持ちになりがちなテーマではあるが、本書では随所に黒木先生らしいユーモアが隠されている。例えば、山中先生とツーショットを撮られた画像の、黒木先生ご自身の額から上の部分に、お若いときの画像から豊かな髪を切り取って貼り付けるなどは「改竄」にあたる、など。ちなみに、このエピソードに、山中先生が「私の髪も増やしてほしかった」とビデオメッセージでも突っ込みを入れておられた。
最後の章「研究不正をなくすために」のサブタイトルを載せておきたい。
1.研究倫理教育
2.若い研究者だけの問題ではない
3.研究不正の「ヒヤリ・ハット」
4.風通しのよい研究室運営
5.共有化の確保
6.研究組織の責任
7.研究不正はなくなるか

(黒木先生、小谷先生と記念のショット)
【こっそり追記】実は、本書は原稿の段階で読ませて頂き、謝辞にも取り上げて頂きました。とても光栄に思っています♫
【参考リンク】
拙ブログ:
今回、黒木先生のご高著と同日に発行された拙著
『脳からみた自閉症 「障害」と「個性」のあいだ』(ブルーバックス)