学会最終日・共同参画関連

いよいよ分子生物学会最終日。
朝から「細胞接着の分子機構」のワークショップに参加した。
日本では竹市先生のカドヘリンや月田先生のオクルーディンなど、細胞接着に関する細胞生物学的研究は世界に誇るものがある。
一つとても面白いトークを聞いた。
シート状になる典型的な上皮細胞は互いにタイトジャンクション(密着結合)という構造によって結合し、それによってシートの表側(専門用語としては先端側)から裏側(基底膜側)へ液体などが漏れ出さないようになっている。
これが皮膚にしろ、消化管にしろ、バリア構造として基本的に重要である。
上皮細胞を表側から見ると六角形が敷石状にぴったりと並んでいることになるのだが、よく見ると、3つの細胞で構成される「角」が必ず存在する。
この角はさらに特別な構造となっているということが電子顕微鏡的観察から示唆されていた。
月田先生の研究室の池ノ内順一さんは、この「角」に存在する特別なタンパク質があるだろうと予測し、それを同定しようとした。
月田先生が一連のタイトジャンクション構成タンパクを見つけようとされたときには、いわば力づくというか、生化学的な手法で精製を繰り返されて発見に至ったのだが、池ノ内さんはとても現代的な手法を用いた。
上皮構造を取っている細胞にsnailという転写因子を働かせると、上皮構造が崩れてばらばらの細胞になる(これをepithelial-mesenchymal transitionという)。
元々の上皮細胞ではタイトジャンクションが発達し「角」のタンパク質もしっかり存在するのだが、細胞がばらばらになる際に、このようなタンパク質を作らせるmRNAは著しく減少すると考えられる。
そこで池ノ内さんは、元々の細胞から抽出したmRNA群とばらばらになった細胞のmRNA群を、マイクロアレイという手法により比較し、元々の細胞に存在し、ばらばら細胞では存在しないmRNAを候補遺伝子として捉えるということを行った。
また、オクルーディンが4回膜貫通型のタンパク質だったので、それに似たタンパク質を作らせる遺伝子をさらに選んだ。
この遺伝子が作るタンパク質に対する抗体を作製し、上皮構造を取っている細胞を染めてみると、見事「角」だけが綺麗に染まったのである!
そうやって、池ノ内さんはトリセルリンtricellulinという分子を同定した。
(3つの細胞の角なのでtricellularから命名された)
初めてデータを見たときには、どんな気持ちだっただろうか……。
サイエンティストの夢見る「宝物をようやく見つけた気持ち」であろう。
まもなくオンライン公開される論文はこちら
Tricellulin constitutes a novel barrier at tricellular contacts of epithelial cells
J. Ikenouchi, M. Furuse, K. Furuse, H. Sasaki, S. Tsukita, and S. Tsukita

午後はscientificな企画ではなく、男女共同参画関連行事2つに参加した。
1つ目はランチョンセミナー形式で、味の素ライフサイエンス研の大住千栄子さんと日立の中央研究所の篠村知子さんのオーガナイズにより「企業の女性研究者・技術者をとりまく環境」というワークショップ。
企業の方々は一般にお話が上手である。
企業においては男女共同参画関連はCSR活動、すなわちCorporate Social Responsibilityー企業の社会的責任の一環として捉えられている。
お話し頂いたのは、味の素、日立のほか、東芝と資生堂。
育児休暇制度などは柔軟なものができているようだ。
とりあえずリストラに会わなければ企業の方がずっと安定した職になっているというのは、大学の力を大きくそいでいる気がした。

引き続いて、熊本大学の粂昭苑さんと田賀哲也さんのオーガナイズで「両性がともにキャリアパスの多様性を享受する機会を得るには」というシンポジウム。
今回は、夫婦ともに働いている人の事例を5人紹介して頂いた。
その後、私は「分子生物学会の男女共同参画への取り組み」について紹介し、さらに内閣府男女共同参画局の塩満典子さんに政府の施策について説明して頂いた。

このブログでたびたび繰り返して「科学技術基本政策のパブコメにエントリーしませんか?」という呼びかけをしているが、先日ある方から以下のようなコメントを頂いた。

日本のパブコメの問題は、一般からコメントを出した場合、「誰か」がその一部だけを選択して、都合良い部分だけを活用するという操作が行われていることだと思います。私は、これまで数多くのコメントを提出してきましたので、「誰か」が行っている手口というのが分かってきました。彼らには、何か最初から実現したいような政策があって、パブリックコメントはそれを補強するための手段として利用しているのです。では、都合良いところをだけを選択しているのは誰か、私は、大変興味があります。表にはでてこない官僚、政策決定に関わっている一部の科学者なのでしょう。既得権や利権に関わる政策に関わる人は、裏で動く人ではなく、表で正々堂々と賞賛されたり批判されたりされる実名の人になるべきだと思います。


私は、甘いと言われるかもしれないが、それほど悲観的には思っていない。
現に、分子生物学会や学協会連絡会からの提言の中の具体的な要望は「基本計画」の一部に反映された。
人材育成に関しても、文科省の委員会での議論を下敷きにして、「若手育成支援」などが盛り込まれている。
それを良しとするにせよ、まだ足りない、と言うにせよ、求められているパブリックコメントにエントリーするのは要望を出した側としてのフィードバックでもあると考える。
現在、様々な委員会や審議会のメンバーは名簿が公表されており、多くの重要な会議は公開で、議事録が後日ウェブ上にも公表されるなど、トランスペアレンシーは非常に考慮されている。
それでも、「表にはでてこない官僚や一部の科学者」が何らかの政策決定の鍵を握っているということはあるかもしれない。
そうであればなおのこと、一般的に「既得権」から遠い女性研究者や若手研究者がそのような政策決定の場に多くなるべきであろう。

皆さん、是非ご意見をこちらにどうぞ!

PS:戻ってきたら、仙台は小雪がちらついていた。
やはり冬なんですね・・・>
by osumi1128 | 2005-12-10 23:37

大隅典子の個人ブログです。所属する組織の意見を代表するものではありません。


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