神経科学分野における日中韓の連携

韓国の神経科学学会Korean Society for Brain & Neural Science (KSBNS)にご招待を受けてソウルに行ってきました。といっても、会場はソウル郊外のKINTEXという新しいコンベンションセンターで、隣接のホテルに前泊し、朝から夕方まで一日のみの参加で、またもや韓国料理をほとんど食べる機会が無く……。仙台から直行便で2時間という距離感も、なんとなくパスポートを忘れそうになるくらいの近さです。

登壇したセッションはChina-Japan-Korea Joint Colloquiumという枠で、それぞれの国の神経科学学会の会長が揃い踏みで座長をし、3時間の間に各国2名ずつが発表するというもので、内容も多岐にわたるものでした。韓国の学会の会長であるBong-Kiun Kaang先生が冒頭で、今後この3国が世界の中で北米、欧州に次ぐ第三の拠点になるべきというスピーチをされました。

神経科学分野では、Society for Neuroscience(SfN、北米神経科学学会)が毎年、3万人規模の学会を開催し、日本からの参加者も1000名を超えています。欧州にはFederation of European Neuroscience (FENS、欧州神経科学連合)の開催する学会が隔年で開催され、こちらの参加者はたぶん5000人程度だったかと思います。日本は毎年開催される神経科学大会の学会員が5500名程度、学会の参加者が3000人くらいです。韓国、中国と日本を合わせると学会員として12000人程度になるので、2年に一度、East Asia Neuroscience Meetingを開催してはどうか、ということを提案されていました。確かに、日本からSfNやFENSに参加するのは、旅費も時間もかかりますし、何しろ時差のあるところで戦わなければならないというのが不利な点です。これらの学会に替わる国際学会として日中韓の学会で済むなら、こんな有り難いことはありません。

しかしながら、いくつかの問題が実際にはあります。

まず一つ目は、現実問題として、日本の神経科学大会は5年先まで会場が押さえられていて、今から日中韓の国際学会を組み込むとなると2021年よりも先のことになるでしょう。仮に日中韓学会を2年に一度行うとして、日本に回ってくるのが6年に一度だとしても、かなり前もって予定しておく必要があります。

二つ目は、それぞれの学会の運営体制が非常に異なる可能性があり、それらが一緒になって行うというのは、かなりのエネルギーが必要だということがあります。日本の中でもいくつかの学会が合同大会を行うことがよくありますが、日本語で交渉することができてさえ、「合同大会は大変だ」という声はよく耳にします。

そして三つ目で、これがもっとも重要かもしれませんが、学会のレベルの問題です。日中韓の個々の学会が比較してどうか、ということは置いておくとして、日中韓学会がSfNに匹敵するレベルになるのであれば、遠くにいくより楽だし理想的ではあるのですが、現実にはそこまでにはならないように思われます。となると、どれだけの参加者となるのか、日本からの参加者を考えた場合には、国内学会にさらに「加えて」行くだけのメリットがあると思えるか、という点が問題になるでしょう。国内学会の「代わりに」行くという気軽さになれば別ですが、学生さんにとってはハードルが高いかもしれません。

いずれこのような日中韓問題は、どのような学会でも考えることが必要なのかもしれません。ただし、日本でどのくらいの人々がこういうポリティカルな問題を深く考えられるかというところも心配な点があります。例えば、Kaang先生はMolecular Brainという雑誌の創設編集者なのですが、この新興の雑誌を立派な国際誌に育て上げました。日本では、生命科学系のどの学会の雑誌も良い論文を集めるのに苦労している現状があります。研究以外のことに割かれる労力が多すぎるということが一番大きな問題だと思うのですが……。

ともあれ、塩野七生先生の『ギリシア人の物語』を読みながら、ギリシアの都市国家(ポリス)がペロポネソス同盟によってペルシアからの侵略を食い止めたことなどを頭の中で反芻しました。本日はローマの知人のところでセミナーです。
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画像は最後の集合写真(ただし、ご講演の後にすぐにサンフランシスコに向かった尾藤先生が入っていないのと、私の握手が逆向きだったのが……)。

by osumi1128 | 2016-09-30 14:58 | 科学技術政策

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