エリーチェに行ってきた:シチリアから世界平和へのメッセージ

初めてイタリアのシチリア島に行きました。アリタリア航空を乗り継いでローマからパレルモへ。そして国際会議の方で用意されたシャトルで1時間半、西北の
エリーチェという古い街にある教会や修道院が、現在はEttore Majorana Foundation and Center for Scientific Culture(EMFCSC)
という財団の所有として会議場や宿泊施設になっていて、毎週のように国際会議やセミナーが開催されています。今回参加したのは、Genomic Imprinting, Epigenetics and Physical Functionsというミーティングで、共同研究者のValter Tucci先生(ジェノバにあるイタリア技術研究所に所属)に招待されました。




この財団を設立に関わったのはAntonio Zichichi先生という物理学の研究者。50年以上前の1963年にエリーチェで初めてSubnuclear Physicsのワークショップのようなもの(School)を開催したようです。財団の冠となっているEttore Majoranaは、1906年生まれのイタリアの理論物理学者のお名前。1982年には二度と世界大戦が起こらないために科学者が為すべきこととして、The Erice Statement(エリーチェ宣言)を発表しています。一部を抜粋しておきます。

It is of vital importance to identify the basic factors needed to start an effective process to protect human life and culture from a third and unprecedented catastrophic war. To accomplish this it is necessary to change the peace movement from a unilateral action to a truly international one involving proposals based on mutual and true understanding.

The scientists---in the East and in the West --- who agree with this “Erice Statement”, engage themselves morally to do everything possible in order to make the new trend, outlined in the present document, become effective all the world over and as soon as possible.

標高751メートルに位置するエリーチェの、さらにもっとも高いと思われる建物の最上階がポスター会場となっていて、コーヒーブレイクのたびに、美しい地中海が眺められます。なんて平和な景色でしょう! 会議のスタイルも一人あたりの発表時間が30分から45分という長さでゆったり。さらに昼食と夕食は近くの7ヵ所の指定レストランに、それぞれグループで出向いて頂くスタイルで(地域の経済活性化という目的もあり)、ランチブレイクが2時間。さすがイタリアです……。石畳の通りは坂が多く、会議で頭を使った後のエクササイズにもなります。この4日の間、日本にいるときとは異なる時間の流れの中に身を置くことができました。といっても、科研費申請書書きのシーズンでもあって、インターネットに繋がって日本時間に合わせて行動していましたが(苦笑)。
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今回の会議の中心テーマであったゲノム・インプリンティングという現象は、父方、母方から受け継ぐ染色体の「対立遺伝子」のうち、片方のスイッチが入らないような目印が付いている(インプリントされている)ということで、例えば、胎盤の形成に必要な遺伝子は母方がインプリントされていて父方のみがオンになり、胎仔の形成に必要な遺伝子は逆に父方がインプリントされていて母方がオンになる、という仕組みがおそらく最初に見つかったものだったと思います。発生学の教科書にも書かれているくらい有名な事象なので、もしかするといつかインプリンティングの研究がノーベル賞の対象になるということもあるかもしれません。

ノーベル賞と言えば、月曜日の初日の発表が大隅良典先生の生理学医学賞の単独受賞だったので、自分の発表のジョークスライドとして使わせて頂きました。

さらに偶然、2002年のノーベル物理学賞を受賞された小柴昌俊先生が書かれた手記を見つけました。昭和60年4月30日の日付となっています。上記のエリーチェ宣言から3年後ですね。イタリア中部のラキラというところで物理学の会議が開かれた折に、前述のEMFCSCを設立されたズィキキ先生が、参加者に「平和について何か書いて下さい」とお願いしたためと冒頭に書かれています。最後の部分を引用します。

……私の子供たちは20才をとうに過ぎていますが、「平和」の中に育ってどのくらい「平和」が有難い事なのかを十分に感じているとは思いません。おそらく空気と同じ様にそれがなくなって始めて(ママ)、如何に大切なものであったかを知り、失ったものに戻れと涙を流すのでしょう。物理学者の一人として今戦争が始まったら前大戦とは比べものにならない地獄が出現する事は他の職業の人々よりはっきりと予感出来ます。もう一度「平和」を改めて感じなほしましょう。(旧仮名遣い、旧字体など変換できず……)
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イタリアという国は不思議です。気候が穏やかで食べ物に困らず、古い遺跡と最先端のデザインやファッションが並立しつつも、なぜか人々のやり方は効率の悪いことおびただしい。今回、マドリッドからの参加者は、日曜日到着で荷物が着いたのが木曜日だったり、私の帰路のパレルモからローマの便は2時間遅れ(ローマ空港の天候によって、パレルモからの機体到着が遅れたからということでしたが)、フミチーノ・ダ・ヴィンチ空港から飛び立ったのも45分遅れという、噂通りのアリタリア・クオリティ(でも新しい制服はめちゃくちゃお洒落♬)。会議の間でエクスカーションに出かけたセジェステというギリシア時代の神殿や劇場のある街では、入場のためのチケットを買うのにだらだらと30分以上かかったり(日本だったら、グループツアーなら参加者全員分をまとめて買っておいて配ったりするでしょう)。

ところが一方で、なぜか、世界平和など国を越えて大所高所から考えたアクションする人たちも多いように思います。知名度は高く無いかもしれませんが、TWAS(第三国科学アカデミー)という、発展途上国の科学技術の発展を支援するための組織の本拠地も、イタリアのトリエステというところにあります。欧州最古の「大学」はボローニャ大学です(世界初の大学としては、紀元前7世紀総説のタキシラの僧院。世界最古の医学部はモンペリエ大学のものとのこと)。ギリシアの次に欧州から中東を巨大なローマ帝国としてまとめ上げ、ルネッサンスの中心となった人々のDNAが脈々と続いているのかもしれません。





by osumi1128 | 2016-10-09 09:32 | 旅の思い出

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