サンディエゴで開催された北米神経科学大会には、最終日の午前中まで参加した後、サンフランシスコに移動した。
いわゆる「シャトル」的なフライトで、念のために予約するのに変更可能なチケットだったので、自動チェックイン機でチェックインの手続きをする際、早目の便に変えられないかと思ったが駄目だった。ちょっとフライトまで時間が長いなぁと思いつつ、ゲート近くで書類書きに没頭していたら、どうも待機していたゲートを間違えていたらしく、人々の気配を感じたのは、実は次の便に乗る方たちが搭乗口に並び始めたからだった。
……つまり、気づいたのは、乗る予定の飛行機がちょうど飛び立った後だった……。
大慌てでカウンターに駆け込み、30分くらい後の次の便にスタントバイして事なきを得た。やれやれ……。移動日だと思って少し気が抜けたのかもしれない。同じ3時代に2本も飛んでいると思わなかったのよね……。まぁ、蓋を開けてみると、次の便の座席の方が実は、前の方で座席が良かった、のたけど、良い子は真似してはいけませんww 空港に着いたら、まずは自分の予定の便がオンタイムか、ゲートはどこか、正確に把握しましょう。
サンフランシスコは4年ぶりくらいだろうか。何度も訪れており、たぶん、ボストンの次に長く滞在したことのある都市。一通りの観光地も美術館も巡ってしまって、以前は友人の結婚式にNapa Valleyまで足を延ばしたりできたが、今は用務として行くだけになってしまっている。
今回はカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)の古くからの友人であるJohn Rubenstein博士にホストして頂いてのセミナーと、Neuroscience Graduate ProgramのヘッドになったAnatohl Kreitzer博士への面会がメインで、その他、数名のPIとの情報交換を行った。(画像はAnatohlのいるDavid Gladsone Institute。山中先生のラボもあるところですね)
UCSFは10年くらいかけて、古いパルナッサスのキャンパスから、ミッション・ベイに神経系のラボを移して来た。当初に移らなければならなかったJohnは、自宅に近いパルナッサスの落ち着いた雰囲気が大好きで、キャンパス・シャトルでミッション・ベイの新キャンパスまで通うのに不平たらたらだったのだが、今やほぼすべてのラボがミッション・ベイに移ってきて、その方が研究環境もよく、共同研究もやりやすいので、すっかり馴染んでいた。近所に面白い食事処も増えたからだろう。
さて、Anatohlとの仕事の話の途中で「ところで、貴方のオフィスって、完璧に片付いているのだけど、書類など、どうしているのですか?」と訊いてみると、「え? 別に電子媒体で整理しているから、紙はほとんど必要ないよ」とのこと。「でも、じゃぁ、こうして私が東北大学から持ってきたパンフレットなど、ゴミ箱に直行ってこと?(笑)」「いや、そうじゃないけど……(汗)。自分だって紙のファイルはここにあるよ」といってファイルキャビネットを見せてくれて、「あぁ、私も古い文献だけは紙で保管してますね……」という会話をした。
一方、Johnのオフィスは雑然といろいろなものが散乱している。教科書等の書類が多いのはもちろんだけど、趣味のギターが置いてあったり、あちこち講演で行ったときのお土産や、とくにお茶が好きなので、日本の緑茶や番茶、本場の烏龍茶、普洱茶、韓国の名前は知らないお茶などの缶がずらっと並んでいる。2008年頃だったかに仙台に来ていただいた際に送った東北医学会からの表彰状の側に、「貴方の研究が載っているから」といって差し上げた拙翻訳本『心を生み出す遺伝子』の、岩波書店からの初版も棚の上にあったのは嬉しかった。
私の理想は完璧に片付いたAnatohlのオフィスなのだけど、実際には気づくとJohnのオフィスに近づいている。会議資料の書類を捨てるかどうか判断する際に、「ちょっとデスクの上に寝かせて考える」時間が長すぎるのだ。自分の居心地としては、その間くらいのところが一番落ち着くのだ、と言い訳していたけど、実はディジタル化でもう少し減らせるはずということだろう。
ちなみに本学数学科のK先生は、「書類はちょっとずらして置くと良い」という自説をお持ちで、その理由は「そうすると、書類の端っこが見えて、何の書類かがすぐわかるから」とのこと。彼女は幾何が専門だから、やっぱりパターン認識型なのかもしれない。ともあれ、研究以外の仕事もたくさん抱えておられるので、理学部のお部屋だけでなく、AIMR機構長オフィスにも書類が床にも積み上げられている(CSTIオフィスも、就任直後に伺った際はがらんとしていたけど、最近はそのような具合なのではと予測する……違っていたらごめんなさい)。
「机を片付ける派 vs 片付けない派」の違いの背景には、20歳くらい若いAnatohlのディジタルな書類管理の徹底と、Johnのようにアナログ時代に確立した仕事のやり方の違いもあるかもしれない。どのあたりに境目があるのかは、研究分野や職種によっても違うだろう。私自身、かつて図書館に行って自分でコピーした論文は保存しているが、新しい論文はPDFで保管している。種々の管理ソフトもあるが、それもまた面倒なので、保存する際のファイル名の工夫だけで、あとは優秀になった検索エンジンに任せるか、いっそのこと再度PubMedやGoogle検索した方がずっと早い。あと、PDFをモニタやiPadで拡大した方が目に優しいお年頃になったということもある(苦笑)。実際、PDFを印刷した図は小さすぎてわからないことも多い(これはこれで、問題があるのだが……)。
ここしばらく、自分の職場の会議で「書類をディジタル化しませんか?」と言うと難色を示されてしまうのだけど、何もお金をかけて立派なシステムを組む必要はない。単に、集まった資料を事務補助員の方に必要部数をコピーしてもらうのではなく、まとめた一つのPDFファイルにし、会議前にメーリングリスト経由で配信するだけで済むことだ。議事次第から該当ページに飛べたり、途中で議事次第に戻ったりできればなおベター。
でも、中にはもしかしたらファイルされた書類の中に埋もれていたい方々もいるのかもしれない。機内で観た「シンゴジラ」で、緊急にゴジラ対策本部が作られたときに、多数の人々が分厚いバインダーを抱えて右往左往している様子が印象に残った。これがいわゆる日本の行政組織のスタイルということだろう。もしかしたら、紙のファイリングを止めるだけでも仕事が経るのではないかと思う。ただしこれは、大きな視点で言えば、コピーとファイリングなどの単純労働をする方の雇用を奪うことにもなりえる。
……ともあれ、1週間の出張後にオフィスにどのくらいの書類が溜まっているか、それを片付けるところから始めないと……。
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おまけの画像はランチに訪れたトラック屋台が集まっているところ。ピザからラーメンから、いろいろな料理が選べます。ププサという食べ物を初めて食べました。決して安くはないのはサンルフランシスコ事情……。