拙著あとがきのあと(その11):東田直樹さんのNHKスペシャル番組に関わりました

米国大統領選番狂わせの影響で放映日がずれ込みましたが、昨晩、NHKスペシャル「自閉症の君が教えてくれたこと」を視聴しました。エンドロールに自分の名前が載った初めての番組なので、少し思いを記しておきます。

そもそものきっかけはブルーバックスさんから『脳からみた自閉症 「障害」と「個性」のあいだ』を刊行したことでした。ディレクターの方の目に留まり、取材を受けることになりました。

前回の「君が僕の息子に教えてくれたこと」は、東田直樹さんの著書『自閉症の僕が飛び跳ねる理由』を翻訳したデイビッド・ミッチェル氏が、そのことをきかっけに自分の自閉症の息子のことを理解することができたというヒューマン・ドキュメント。平成26年度文化庁芸術祭テレビ・ドキュメンタリー部門大賞などを受賞しました。今回は、その2年後の直樹さんの成長、認知症のお祖母様への気持ち、自身が癌に冒され障がいを持つことになったディレクターの視点が主軸となりました。

番組制作の過程において、「脳科学的な観点を取り込みたい」ということでしたので、東北福祉大学特任教授の小川誠二先生にお繋ぎしました。小川先生は、機能的脳画像撮影の原理開発により2003年に日本国際賞を受賞された研究者で、現在は福祉大の感性研究所に研究室を持っておられます。
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今回、直樹さんの休息期脳活動計測や心理検査などを行うことになり、現場に立会いましたが、この部分は残念ながら番組の中には盛り込まれませんでした。その理由としては、50分のヒューマンドキュメンタリー番組の中に「脳科学」をうまく入れることが難しかったであろうことや、直樹さんの「個性」を十分に説明するだけの説得力のあるデータとして耐えうるか、という面があると思われます。しかしながら、テレビ番組制作の過程の一部を観る貴重な経験をさせて頂きました。

直樹さんは、多動の傾向もありますし、簡単に言葉を発することができないので、通常の知力検査では低いスコアしか出すことができません。つまり、豊かな感性があったとしても、それを客観的に示すことは困難です。発話が不自由な面は「文字盤」を使って補うということで対応しています。キーボード型に配置された文字を指差し、それを追いかけながら一字一字発音することで、発話のきっかけとしているようです。一方、PCを使って執筆活動をすることは可能で、これまでに多数の著書を出してきました。

私自身を振り返ると、PCのキーボードはブラインドタッチでタイプできますが、スマホではそこまで早く自分の気持を言葉として表わせません。そんなときのもどかしい気持ちは、もしかしたら直樹さんが発話に困難を感じることと繋がっているのではないかと思っています。また、直樹さんの書かれたものを読むと、他人とのコミュニケーションが少ない分、自分の脳の中で何度も反芻され、内省された言葉として表れているような印象があり、そのことは、偉大な宗教家の営みとの共通性のように感じます。

脳科学ではこれまで、特定の活動に関わる脳の部位の同定(例えば、発話に関わるのは脳のブローカ野などのように)や、自閉症の人々の脳は健常者の脳とどのように異なるのか、という解析など、10〜20名程度の集団の平均値でデータを理解する方向で進んできました。これからはもっと、それぞれの人の「個性」が脳内でどのように表現されているのかについての理解が進むことを期待しています。そのような視点から、『多様な「個性」を創発する脳システムの統合的理解』という研究班を立ち上げています。この数年の間にこの分野がどのように進展するのか楽しみです。

なお、番組は12月14日(水)午前0時より再放送が決まっています。見逃した方はぜひ♬

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by osumi1128 | 2016-12-13 00:19 | 自閉症

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